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ロシア・ウクライナ紛争下での中核犯罪Core Crimes under Russia-Ukraine War 
行われた疑いのある中核犯罪 
Core crimes allegedly committed

Crime of aggression

Individuals to be prosecuted

Crimes against humanity

War crimes

aggrssion

中核犯罪 Core crimes

WC

Crime of Aggression 侵略犯罪

本件で問題となる行為の構成要件該当性

犯罪と認定するためには、規程に書かれている定義に、実際の行為が当てはまること(構成要件該当性)を確認しなければなりません。報道されていることを事実と仮定して、当てはめを行ってみます。

​(2022年3月14日にはすでにプーチン大統領に対する「モデル起訴状」が提案されており、以下は同資料、および事実関係についてはBBCロイターを参照)

●侵略犯罪の定義(ICC規程8条の2)

1.この規程の適用上、「侵略犯罪」とは、国の政治的または軍事的行動を、実質的に管理を行うかまたは指示する地位にある者による、その性質、重大性および規模により、国際連合憲章の明白な違反を構成する侵略の行為の計画、準備、着手または実行をいう。

2.第1項の適用上、「侵略の行為」とは、他国の主権、領土保全または政治的独立に対する一国による武力の行使、または国際連合憲章と両立しない他のいかなる方法によるものをいう。以下のいかなる行為も、宣戦布告に関わりなく、1974年12月14日の国際連合総会決議3314(XXIX)に一致して、侵略の行為とみなすものとする。

a) 一国の軍隊による他国領域への侵入または攻撃、若しくは一時的なものであってもかかる侵入または攻撃の結果として生じる軍事占領、または武力の行使による他国領域の全部若しくは一部の併合

b) 一国の軍隊による他国領域への砲爆撃または国による他国領域への武器の使用

c) 一国の軍隊による他国の港または沿岸の封鎖

d) 一国の軍隊による他国の陸軍、海軍または空軍若しくは海兵隊または航空隊への攻撃

e) 受け入れ国との合意で他国の領域内にある一国の軍隊の、当該合意に規定されている条件に反した使用、または当該合意の終了後のかかる領域における当該軍隊の駐留の延長

f) 他国の裁量の下におかれた領域を、その他国が第三国への侵略行為の準備のために使用することを許す国の行為

g) 他国に対する上記載行為に相当する重大な武力行為を実行する武装した集団、団体、不正規兵または傭兵の国による若しくは国のための派遣、またはその点に関する国の実質的関与

(和訳:国連広報センター

実行者の地位

「国の政治的または軍事的行動を、実質的に管理を行うかまたは指示する地位にある者による」(1項)

 

→本件ではロシア大統領(最高司令官)を筆頭としたロシア政府主導であるため一見して充足

​なお、侵略犯罪で訴追され得るのは上記の地位にある者のみです。

 

実行行為

「侵略の行為の計画、準備、着手または実行」(1項)

→本件は行為の計画、準備、着手または実行、すべてが行われた事例といえる

国による「侵略行為」

​全般

「その性質、重大性および規模により、国際連合憲章の明白な違反を構成する侵略の行為」(1項)

→国連総会ロシア非難決議(A/ES-11/L.1, 1 March 2022)決議2「憲章2条4項違反のウクライナに対するロシアによる侵略を最も強い文言で非難する」(”2. Deplores in the strongest terms the aggression by the Russian Federation against Ukraine in violation of Article 2 (4) of the Charter;”)

としているため、憲章の明白な違反と主張可能。ただし、全会一致ではないこと(賛成141-反対5-棄権35-無投票12)(反対:ロシア、シリア、キューバ、北朝鮮、エリトリア)を根拠に「明白性」を争い得るか。

そのほか、「特別軍事作戦」であるというロシア側の主張(ルハンスクおよびドネツクにおけるウクライナによるジェノサイド)によるいわゆる人道的介入の余地による「明白性」への疑義?(ただし、国際司法裁判所(ICJ)の仮保全措置命令により、ジェノサイド条約不履行に対する武力行使の正統性は否定される?”The acts undertaken by the Contracting Parties “to prevent and to punish” genocide must be in conformity with the spirit and aims of the United Nations, as set out in Article 1 of the United Nations Charter” (para. 58) ”it is doubtful that the Convention, in light of its object and purpose, authorizes a Contracting Party’s unilateral use of force in the territory of another State for the purpose of preventing or punishing an alleged genocide” (para. 59))

​そのほか、自衛、「平和維持(peacekeeping)」、「ドネツク・ルハンスク人民共和国」の同意等の主張もあり得る。

本件におけるロシアによる侵略行為

「他国の主権、領土保全または政治的独立に対する一国による武力の行使、または国際連合憲章と両立しない他のいかなる方法によるもの」(2項)

→「武力の行使」

→国連憲章との非両立性は上記。

侵入

「a) 一国の軍隊による他国領域への侵入または攻撃、若しくは一時的なものであってもかかる侵入または攻撃の結果として生じる軍事占領、または武力の行使による他国領域の全部若しくは一部の併合」(2項)

 

→2022年2月24日:ロシア軍が北部国境をベラルーシから越え、ウクライナ領域に侵入、チェルニフ市に達し、チェルノブイリ原子炉地区を制圧/クリミアから南部のケルソン市に侵攻し、湾港都市オデッサに駐留

→2022年2月25-26日:キエフに侵入

→2022年2月27日:ザポリツツィアとマリウポルに侵入

→2022年2月28日:キエフ西側の都市、および南東の都市ベルダンスクを制圧

→2022年3月2日:南部都市ケソンを制圧

→2022年3月5-7日:マリウポルとミコライフの南側都市に侵入、ザポリツツィア原子炉を確保

爆撃

「b) 一国の軍隊による他国領域への砲爆撃または国による他国領域への武器の使用」(2項)

→2022年2月24日:数百のミサイルがウクライナ内の軍事目標に着弾

→キエフ、カルキフ、ケソンに対して爆撃

→2022年2月27日—3月3日:文民が居住する都市に対するロケット、砲弾、空爆、ミサイル攻撃

→2022年3月1日:キエフの主要なテレビおよびラジオ局、第二次世界大戦ユダヤ記念碑を爆撃

への攻撃

「d) 一国の軍隊による他国の陸軍、海軍または空軍若しくは海兵隊または航空隊への攻撃」(2項)

→2022年2月24日:ロシアの弾道ミサイル、巡航ミサイル等がウクライナの軍事施設および空軍基地を攻撃、初日時点で74のウクライナの軍事目標を破壊

→2022年3月6日:これまで2200以上のウクライナ軍事目標(司令塔、軍事通信システム、防空武器システム、レーダーステーション、航空機、戦車等)を攻撃したとの発表

本件におけるベラルーシによる侵略行為

領域使用許可

「f) 他国の裁量の下におかれた領域を、その他国が第三国への侵略行為の準備のために使用することを許す国の行為」(2項)

→ウクライナ北部からの侵攻のためにベラルーシが領域を提供

​戦争犯罪 War crimes

ICC規程8条 戦争犯罪

1 裁判所は、戦争犯罪、特に、計画若しくは政策の一部として又は大規模に行われたそのような犯罪の一部として行われるものについて管轄権を有する。

2 この規程の適用上、「戦争犯罪」とは、次の行為をいう。

(a) 千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約に対する重大な違反行為、すなわち、関連するジュネーヴ条約に基づいて保護される人又は財産に対して行われる次のいずれかの行為

​(…)

(b) 確立された国際法の枠組みにおいて国際的な武力紛争の際に適用される法規及び慣例に対するその他の著しい違反、すなわち、次のいずれかの行為

​(…)

 

​(和訳は外務省公定訳)

文脈的要件

戦争犯罪は個々の紛争当事者(戦闘員であるか、文民であるかを問わない)によって行われる犯罪行為です。8条1項は、「特に」政策的にまたは大規模に行われたもの扱うとしていますが、散発的な犯罪も視野に入っていると考えられています。

 

紛争の性格付け

8条2項(a)及び(b)は国際的武力紛争、(c)以降は非国際的武力紛争(内戦)下での犯罪行為に適用されます。そのため、適用規則をはっきりさせるために、紛争が国際的なものなのか、非国際的なものなのかの「紛争の性格付け」が必要になります。

→本件は、2つ以上の国家の間で行われている敵対行為であるので、国際的武力紛争であるといえます。そのため、8条2項(a)及び(b)に定義される犯罪が構成され得るといえます。

 

「文脈」要件

戦争犯罪となるためには、当該行為が​その紛争の「文脈」において行われたものである必要があります(犯罪構成要件文書4)。これは、紛争中にも、いわゆる「通常犯罪」は生じ得るので、それらとの区別が必要になるからです(例えば、避難所での文民による強姦等は戦争犯罪を構成しないと思われます)。具体的な敵対行為との繋がりではなく、より一般的に武力紛争との関連性があればよいとされていますが(Al Mahdi事件判決(ICC))、事例ごとに判断されることになると思われます。

ロシア側により行われた疑いのある戦争犯罪

​(網羅的には出来ておりません。以下のサイトもご参照ください)

 

文民や戦闘外に置かれた人に対する攻撃(8(2)(a)(i)、(iii)、(b)(i)、(v))

「(a) 千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約に対する重大な違反行為、すなわち、関連するジュネーヴ条約に基づいて保護される人又は財産に対して行われる次のいずれかの行為

(i) 殺人

(iii) 身体又は健康に対して故意に重い苦痛を与え、又は重大な傷害を加えること。」

「(b) 確立された国際法の枠組みにおいて国際的な武力紛争の際に適用される法規及び慣例に対するその他の著しい違反、すなわち、次のいずれかの行為

(i) 文民たる住民それ自体又は敵対行為に直接参加していない個々の文民を故意に攻撃すること。

(v) 手段のいかんを問わず、防衛されておらず、かつ、軍事目標でない都市、町村、住居又は建物を攻撃し、又は砲撃し若しくは爆撃すること。」

→2022年2月24日~:ロシアによる無差別的な攻撃の主張

→2022年2月26日:ケルソンの救急車の運転手および患者に対し発砲、2人は死亡

→2022年3月5日:ヤスノホロッカ検問所におけるロスティスラフ・ドゥダレンコ司祭の殺害

→2022年3月13日:ウクライナで取材中だったアメリカ人のジャーナリスト、ブレント・ルノー氏がロシア軍に銃撃され死亡

→2022年3月15日:アメリカ・フォックスニュースのカメラマンらが銃撃を受け2人が死亡

→2022年3月:ブチャにおける文民殺害(後ろ手に拘束)

→2022年3月:ボロディアンカにおける文民殺害

→2022年3月:イルピンにおける文民殺害

*4月中の攻撃についてフォローできていません

→2022年5月19日:ルハンスク州セベロドネツクの住宅地などが砲撃を受け12人が死亡40人以上がけが

→2022年6月28日:ポルタワ州クレメンチュクのショッピングセンターへのロシアによるミサイル攻撃​(18人以上が死亡36名が行方不明)​

オープン・ソースを利用したマッピングによる追跡

ベリングキャットによる文民が犠牲になった可能性のある事件のマップ​(Bellingcat)

拷問(8条2項(a)​(ii))

「拷問又は非人道的な待遇(生物学的な実験を含む。)

→2022年2月28日:ロシア兵捕虜に対するウクライナによる拷問?

→2022年3月5日:ウクライナ人通訳に対するロシア兵による拷問(「ニキータ」事件)?

→2022年3月:イルピンで​民間人9人が拷問(訴追開始)

軍事的必要性により正当化されない破壊(8(2)(a)(iv), 8(2)(b)(ii) 、(iv))

「(a) 千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約に対する重大な違反行為、すなわち、関連するジュネーヴ条約に基づいて保護される人又は財産に対して行われる次のいずれかの行為

(iv) 軍事上の必要性によって正当化されない不法かつ恣(し)意的に行う財産の広範な破壊又は徴発

(ii) 民用物、すなわち、軍事目標以外の物を故意に攻撃すること。

(iv) 予期される具体的かつ直接的な軍事的利益全体との比較において、攻撃が、巻き添えによる文民の死亡若しくは傷害、民用物の損傷又は自然環境に対する広範、長期的かつ深刻な損害であって、明らかに過度となり得るものを引き起こすことを認識しながら故意に攻撃すること。」

→2022年2月25日:キーウ小児病院攻撃

→2022年2月27日:チョルノービリ原子力発電施設への攻撃

→2022年3月2日:キーウテレビ塔の空爆(軍事目標であった可能性も残る)

→2022年3月17日:避難所として使われていた劇場(「子ども」のロシア語)への攻撃

→「人道回廊」への地雷埋設?

→2022年3月24日:白リン弾使用?

​→2022年3月29日:ミコライウ州庁舎の破壊

→2022年6月28日:ポルタワ州クレメンチュクのショッピングセンターへのロシアによるミサイル攻撃

クラスター弾使用

→2022年3月:カルキフでクラスター弾使用

→燃料気化爆弾使用

文化的施設、学校・病院への攻撃(8(2)(b)(ix))

「(ix) 宗教、教育、芸術、科学又は慈善のために供される建物、歴史的建造物、病院及び傷病者の収容所であって、軍事目標以外のものを故意に攻撃すること。」

病院

→2022年2月24日:ヴレダールの病院への攻撃(4人死亡)

→2022年2月24日:ドネツクの小児病院への砲撃

→2022年2月25日:カルキウの血液バンクへの攻撃(1人死亡)

→2022年2月25日:カルキうの小児病院に対するクラスター弾によると思われる攻撃

→2022年2月25日:メリトポルの癌病院への機関銃および機関砲による攻撃

→2022年2月25日:キーウ小児癌病院攻撃

→2022年2月27日:ヴォルノヴァカ中央地域病院の破壊

→2022年2月27日:チェルニウの小児歯科病院への巡航ミサイルの着弾

→2022年2月28日:アドニス産院への砲撃

→2022年3月1日:ジョトミーウの産院の爆撃

→2022年3月1日:マリウポルの産婦人病院への攻撃(後に9日にも攻撃)

→2022年3月1日:カルキウの病院への攻撃

→2022年3月2日:チェルニウの病院への砲撃(1人死亡)

→2022年3月3日:ルハンスクの小児病院への攻撃

→2022年3月8日:イズィムの病院の爆撃

→2022年3月9日:マリウポリの産婦人科病院を攻撃(子ども1人、女性1人死亡)

→2022年3月9日:ジョトミウの2つの病院への攻撃

→2022年3月10日:ルビツネにおける総合病院への砲撃

→2022年3月11日:ミコライウにおけるがん病院への攻撃

→2022年3月11日:デルガチ中央病院への攻撃

→2022年3月12日:セヴェロドネツクの市立総合病院への攻撃

→2022年3月12日:マカリウ医療クリニック、アドニス医療クリニックへの攻撃

→2022年3月15日:マリウポリ地域集中ケア病院を占拠、400名を軟禁
→2022年3月16日:キーウの小児がん病院への攻撃

→2022年3月16日:キーウの医療クリニックの破壊

→2022年3月18日:リシュチャンスク総合ケア病院への砲撃

宗教、教育、芸術、科学又は慈善のために供される建物

→2022年3月4日:郷土史博物館の破壊、絵画消失、「クインジ美術館」

→2022年3月20日:避難所として使われていた美術学校(マリウポリ市当局)への攻撃

→2022年5月7日:スコヴォロダ記念文学館への攻撃

財産の破壊・押収(8(2)(b)(xiii))

「敵対する紛争当事国の財産を破壊し、又は押収すること。ただし、戦争の必要性から絶対的にその破壊又は押収を必要とする場合は、この限りでない。」

→2022年4月26日:マリウポリ「クインジ美術館」からの展示品持ち出し

移送、拘束、人質にとる行為(8(2)(a)(vii) 、(viii)、2(b)(xxiii))

「(vii) 不法な追放、移送又は拘禁」

「(viii) 人質をとること。」

(xxiii) 文民その他の被保護者の存在を、特定の地点、地域又は軍隊が軍事行動の対象とならないようにするために利用すること。」

→2022年3月11日:メルトポルにおける市長の拘束

→2022年3月13日:ドニプロルネにおける市長の拘束

→2022年3月16日:東部マリウポリの病院を占拠、入院患者や職員ら約400人を人質に

→2022年3月20日:数千人の市民がロシアへ強制移送(マリウポリ市議会声明)、選別収容所の使用​(4月10日時点で4万5千人との報道、うち12万人の子どもが両親を殺された上でロシア領域へ移送)

→2022年6月27日:マリウポリから2000人以上の孤児を拉致(積算24万人の子どもを含む120万人がロシアに強制連行)

*ジュネーヴ文民条約第5条

同条約被保護者が紛争当事国領域にあるときには「紛争当事国の安全に対する有害な活動を行った明白なけん疑」があれば抑留可能

占領地の場合は「間ちょう若しくは怠業者又は個人として占領国の安全に対する有害な活動を行った明白なけん疑」がある等の場合の抑留可能

略奪(8(2)(b)(xvi))

「(xvi) 襲撃により占領した場合であるか否かを問わず、都市その他の地域において略奪を行うこと。」

→2022年4月末~:数万トンの穀物の略奪、国外への移送

飢餓状態の利用(8(2)(b)(xxv))

「(xxv) 戦闘の方法として、文民からその生存に不可欠な物品をはく奪すること(ジュネーヴ諸条約に規定する救済品の分配を故意に妨げることを含む。)によって生ずる飢餓の状態を故意に利用すること。」

→2022年3月13~23日:マリウポリの1週間以上の包囲、脱水症状で死亡

強姦、強制妊娠(8(2)(b)(xxii))

「(xxii) 強姦(かん)、性的な奴隷、強制売春、前条2(f)に定義する強いられた妊娠状態の継続、強制断種その他あらゆる形態の性的暴力であって、ジュネーヴ諸条約に対する重大な違反行為を構成するものを行うこと。」

→2022年3月5日:ウクライナに侵攻したロシア軍の兵士が女性に対し性的暴行

→2022年3月7日:キーウ近郊の民家での強姦

→2022年3月9日:キーウ近郊の民家での強姦・殺人(子どもの目前での強姦)

→2022年4月11日:​ブチャ民家の地下で25名程度の14~24歳の女性が監禁され、システマティックに強姦され、複数人は妊娠

 

化学兵器の使用(8(2)(b)(xvii)、(xvii))

「(xvii) 毒物又は毒を施した兵器を使用すること。

(xviii) 窒息性ガス、毒性ガス又はこれらに類するガス及びこれらと類似のすべての液体、物質又は考案物を使用すること。」

→使用の可能性についての疑義

​赤十字への攻撃(8(2)(b)(xxiv)

「(xxiv) ジュネーヴ諸条約に定める特殊標章を国際法に従って使用している建物、物品、医療組織、医療用輸送手段及び要員を故意に攻撃すること。」

→2022年3月7日:ヴィシュホロドにおいて赤十字のボランティアが人道ミッションへ向かう車両への砲撃

→2022年3月8日:マリウポリの赤十字事務所の破壊

→2022年3月10日:カルキウの赤十字事務所への砲撃

*ICC規程上の戦争犯罪を構成しない武力紛争法違反を構成し得る行為

・原発・核施設への攻撃(API56条))

・禁止兵器(クラスター弾、燃料気化爆弾、無誘導弾)

・人道回廊の攻撃(85(3)(d)API「無防備地区及び非武装地帯を攻撃の対象とすること。」)

 

ウクライナ側による戦争犯罪の疑い

 

戦闘外に置かれた人に対する攻撃(8(2)(a)(i))

「(a) 千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約に対する重大な違反行為、すなわち、関連するジュネーヴ条約に基づいて保護される人又は財産に対して行われる次のいずれかの行為

(i) 殺人

(iii) 身体又は健康に対して故意に重い苦痛を与え、又は重大な傷害を加えること。」

​→2022年3月30日:キーウ地域で捕虜として拘束最多ロシア兵を処刑

拷問(8条2項(a)​(ii))

「拷問又は非人道的な待遇(生物学的な実験を含む。)

→2022年2月28日:ロシア兵捕虜に対するウクライナによる拷問?

→2022年3月27日:ロシア兵捕虜に対するウクライナ兵による虐待動画発信

背信行為(8条2項(b)(xi))

「  (b) 確立された国際法の枠組みにおいて国際的な武力紛争の際に適用される法規及び慣例に対するその他の著しい違反、すなわち、次のいずれかの行為

(xi) 敵対する紛争当事国又は軍隊に属する個人を背信的に殺害し、又は負傷させること。」

→ウクライナ文民が文民であることを利用してロシア側に保護対象であると信頼させたうえでロシア兵を殺傷捕獲すれば、戦争犯罪を構成

                 

 

助命しないことの宣言(8条2項(b)(xii) )

「(xii) 助命しないことを宣言すること。」

→ウクライナ側による、ロシア部隊を「全滅させる、報復する」との発言

(実際に「助命せず全滅させる」などと相手方に宣言した場合には戦争犯罪を構成)

化学兵器の使用(8(2)(b)(xvii)、(xvii))

「(xvii) 毒物又は毒を施した兵器を使用すること。

(xviii) 窒息性ガス、毒性ガス又はこれらに類するガス及びこれらと類似のすべての液体、物質又は考案物を使用すること。」

→2022年3月23日:ロシア国連代表部による、「ウクライナの過激派ナショナリストの挑発行為」主張(ロシア軍の砲撃の結果の漏洩か?)

 

*ICC規程上の戦争犯罪を構成しない武力紛争法違反を構成し得る行為

 ・捕虜画像公開(ジュネーヴ捕虜条約第13条及び第14条)

​参照:

真山全「露ウクライナ侵攻関係国際法暫定論点メモ-jus ad bellum と jus in bello」(長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)他共催「緊急討論:ウクライナ危機II」(2022 年 3 月 25 日 、改同年 4 月 5 日))。

Russian Violations of IHL: The ICC is Not the Complete Answer

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人道に対する犯罪 Crimes agaisnt Humanity

ICC規程7条 人道に対する犯罪

1 この規程の適用上、「人道に対する犯罪」とは、文民たる住民に対する攻撃であって広範又は組織的なものの一部として、そのような攻撃であると認識しつつ行う次のいずれかの行為をいう。

​(…)

2 1の規定の適用上、

(a) 「文民たる住民に対する攻撃」とは、そのような攻撃を行うとの国若しくは組織の政策に従い又は当該政策を推進するため、文民たる住民に対して1に掲げる行為を多重的に行うことを含む一連の行為をいう。

​(和訳は外務省公定訳)

​文脈的要件

人道に対する犯罪をいわゆる通常犯罪から分かつ要素(文脈的要件)については、長年議論されてきました。以下の3つの節があると思われます。

 ①戦争と関連しているから(戦争関連説)                 

 ②組織的又は広範な態様だから(態様説)

 ③国家による関与があるから(国家関与説)

ICC判例では、②態様説が取られていると考えられます( Katanga事件判決(ICC))。

ただし、7条2項のいわゆる「政策」要件との関係で、国家またはそれに類する能力を有する団体により組織的に・広範囲に行われた犯罪の一部であることが文脈的要件であるといえます。

​そのため、本件では、軍、あるいは政府の政策として行われている行為が問題になります。

問題となり得る個別の行為

文民の殺害

「 (a) 殺人」

→ジャーナリストの殺害

→2022年4月2日:ブチャにおける18-60歳文民男性全員を対象とした殺人

拘禁

「(e) 国際法の基本的な規則に違反する拘禁その他の身体的な自由の著しいはく奪」

→市長の拘束

拷問

1項「(f) 拷問」

2項「(e) 「拷問」とは、身体的なものであるか精神的なものであるかを問わず、抑留されている者又は支配下にある者に著しい苦痛を故意に与えることをいう。ただし、拷問には、専ら合法的な制裁に固有の又はこれに付随する苦痛が生ずることを含まない。」

→2022年2月28日:ロシア兵捕虜に対するウクライナによる拷問?

→2022年3月5日:ウクライナ人通訳に対するロシア兵による拷問(「ニキータ」事件)?

強姦、強制妊娠(ICC7(1)(g))

→2022年4月11日:​ブチャ民家地下で25名程度の14~24歳の女性が監禁され、システマティックに強姦され、複数人は妊娠

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ジェノサイド Genocide

ICC規程6条 集団殺害犯罪

この規程の適用上、「集団殺害犯罪」とは、国民的、民族的、人種的又は宗教的な集団の全部又は一部に対し、その集団自体を破壊する意図をもって行う次のいずれかの行為をいう。

(a) 当該集団の構成員を殺害すること。

(b) 当該集団の構成員の身体又は精神に重大な害を与えること。

(c) 当該集団の全部又は一部に対し、身体的破壊をもたらすことを意図した生活条件を故意に課すること。

(d) 当該集団内部の出生を妨げることを意図する措置をとること。

(e) 当該集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。

​(外務省公定訳)*

*「集団殺害」という和訳については批判があります。

​「ジェノサイド(genocide)」とは、ナチスによる虐殺を表すためにポーランドのユダヤ人検察官ラファエル・レムキンにより作られた造語で、国際的インパクトを有する専門用語です。

​「集団殺害」と訳してしまっては、言葉の持つインパクトを正確に翻訳できていない等の問題があります。
 

ウクライナ侵攻の法的根拠としてのジェノサイド

​ロシア側の主張

・ロシアは、ウクライナのルガンス州及びドネツク州においてジェノサイドが行われており、その防止及び処罰の必要性を理由のひとつとして2022年2月24日に軍事作戦を開始

 

「この悪夢を、ロシアしか頼る先がなく、私たちにしか希望を託すことのできない数百万人の住民に対するジェノサイド、これを直ちに止める必要があったのだ。
まさに人々のそうした願望、感情、痛みが、ドンバスの人民共和国を承認する決定を下す主要な動機となった。

(…)

ドンバスの人民共和国はロシアに助けを求めてきた。
これを受け、国連憲章第7章51条と、ロシア安全保障会議の承認に基づき、また、本年2月22日に連邦議会が批准した、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国との友好および協力に関する条約を履行するため、特別な軍事作戦を実施する決定を下した。

その目的は、8年間、ウクライナ政府によって虐げられ、ジェノサイドにさらされてきた人々を保護することだ。
そしてそのために、私たちはウクライナの非軍事化と非ナチ化を目指していく。
また、ロシア国民を含む民間人に対し、数多くの血生臭い犯罪を犯してきた者たちを裁判にかけるつもりだ。

」(プーチン大統領の演説全文和訳(NHK)

国際司法裁判所での扱い

 

2022年2月27日 ウクライナ提訴

主張

1.ロシアの主張とは反対に、ジェノサイド条約3条に定義するジェノサイドのいかなる行為も、ウクライナのルハンスク州及びドネツク州においては行われていないことを宣言すること

2.ロシアは、ウクライナのルハンスク州及びドネツク州における虚偽の主張に基づいて、主張されたジェノサイドを防止し又は処罰することを目的としてウクライナにおいて又はウクライナに対してジェノサイド条約の下でのいかなる行為も適法にとることはできないことを宣言すること

3.ロシアによる、2022年2月22日のいわゆる「ドネツク人民共和国」及び「ルハンスク人民共和国」の承認は、ジェノサイドの虚偽の主張に基づくものであり、したがって、ジェノサイド条約にいかなる基礎ももたないことを宣言すること

4.ロシアにより、2022年2月24日以降に宣言され実行された「特別軍事作戦」は、ジェノサイドの虚偽の主張に基づくものであり、したがって、ジェノサイド条約にいかなる基礎ももたないことを宣言すること

5.ロシアは、虚偽の主張に基づいて、ウクライナにおける及びウクライナに対する武力の行使を含むいかなる違法な措置もとらないという再発防止の保障を提供することが必要であること

6.ロシアのジェノサイドの虚偽の主張に基づいて執られたいかなる行為の結果として、ロシアにより引き起こされたすべての損害に対する完全な賠償を命じること

2022年3月16日国際司法裁判所仮保全措置命令

一応の管轄権

・2州でウクライナにより行われた行為が条約違反のジェノサイドに当たるか否か、ロシアによる軍事力の使用がジェノサイドを防止・処罰するためのものか否かの紛争が存在する

・特別軍事作戦の根拠がロシアが承認した2カ国との相互援助条約に基づく集団的自衛権の行使にあたるというロシアの主張は、請求状で提起された紛争がジェノサイド条約の解釈/適用紛争であるというICJの認定を排除しない

保護を求める権利と権利と要請された措置の関係

・ウクライナは自国領域内のジェノサイドを防止・処罰するためのロシアの軍事作戦の下に置かれない「蓋然性のある権利」(plausible right)を有する。

仮保全措置命令

1.ロシアは、ウクライナ領域内で2022年2月24日に開始した軍事作戦を直ちに停止しなければならない。(13対2)

2.ロシアは、ロシアが指揮し又は支援することができるいかなる軍事部隊又は不正規な武装部隊並びにロシアの支配又は指揮に服させることのできるいかなる組織及び人も上記に述べる軍事作戦を進めるいかなる措置もとらないように確保しなければならない。(13対2)

3.双方の当事国は、裁判所に提起された紛争を重大化させ又は拡大し又は解決を一掃困難にする可能性のあるいかなる行為も慎まなければならない。(全員一致)

(翻訳は、薬師寺公夫「ジェノサイド条約の下での集団殺害の主張(ウクライナ対ロシア)」ウクライナをめぐる問題についてのWeb討論会(2022年3月30日)資料参照。)

本案についての審理はこれからです。

ロシア軍により行われた疑いのあるジェノサイド

集団破壊意図要件

「国民的、民族的、人種的又は宗教的な集団の全部又は一部に対し、その集団自体を破壊する意図をもって行う次のいずれかの行為」​

*「実質的」部分とは、特定集団全体に重大な影響のある程度の「部分」の破壊(Krstic事件2004(ICTY))。

集団破壊意図の証拠

直接的で明白な証拠がない場合には以下のような事実や事情から推論され得る

・一般的な文脈

・同一集団に対しシステマティックに行われる他の犯罪行為

・残虐行為の規模

・特定集団への属性を理由とした被害者のシステマティックなターゲティング

・破壊的で差別的な行為の反復

(Jelisic case (ICTY, 2001), para. 47)

*「計画」や「政策」の必要性に関する議論

・ICTY判例ではこれらの要件はジェノサイドの「法的要素(legal ingredients)」ではないが集団破壊意図の重要証拠であるとしていました(Jelisic case (ICTY, 2001), para. 48

*犯行パターンの存在

・ICC犯罪構成要件文書(EoC)で、ジェノサイド各行為の要素として「行為がその集団に対して向けられた類似の行為の明白なパターンの文脈において行われた。またはその行為が、それ自体、そうした破壊をもたらしうるものであった。」(EoC6(a)~(e))

「「文脈において」という語句には、生じつつあるパターンにおける最初の行為も含まれる」(EoC6)としています。

*軍事行動の中で生じてきた集団破壊意図

Krstic事件(ICTY)では、当初はゼパとスレブレニツァという2つのボスニアのムスリム居留地間の通信を遮断するためのKrivaja95という作戦が、拡大されてスレブレニツァの占拠が目的となり、最終的にスレブレニツァからムスリムを排除する作戦へと変化しました(Krstic case (ICTY, 2001)para.565-568)。同じように、軍事作戦自体は集団の運命とはう関係であっても、その軍隊が特定集団を破壊することを作戦中に決定することもあり得ます(para. 572)。この事件では、作戦として、従軍年齢の男性を殺害するという計画があったことが証明され、ジェノサイド認定されました。

 

→本件で問題となるのは、ウクライナ人というアイデンティティを消滅させるという目的の一部として、ウクライナ国民という集団の一部を破壊する意図があったかどうかです。

意図の証拠

 

●ロシア/プーチン大統領

・過去の主張(「ウクライナという国は存在しない」など)

・ロシア国営通信社『リア・ノヴォースチ』に掲載されたコラム「ロシアがウクライナにすべきこと」から読み取れるジェノサイド意図(「非ナチ化は必然的に非ウクライナ化。」 「ウクライナ主義は、人為的な反ロシアの構築物であり、それ自身の文明的な内容を持たず、外国という異質な文明の従属的要素である。」)(翻訳はこちら参照)

●現地にいた兵士

・個人的に集団破壊意図を持っていた場合でもその他の要件が満たされていればジェノサイド成立します(Jelisic)

→​現地にいた人たちの証言が今後もっとも重要になってきます。特に、住民に対してどのような言葉を発していたかが重要です。特定集団の人数を減らす意図への言及、や虫や通常忌避されるものに例えて呼ばれたという証言はありますでしょうか。あればジェノサイドの重要証拠です。

ブチャにおける大規模な殺人(2022年4月1日判明)

 

キーウ近郊の町ブチャからロシア軍が撤退後、数多くの報道により、数100人もの遺体が発見されました。また衛星により撮影された映像により、3月中にロシア軍により射殺された文民(自転車に乗った状態、買い物途中など)が多く含まれることがわかっています。

 

目的が恐怖支配であれば戦争犯罪+人道に対する犯罪(政策要件充足)、ウクライナ人(特定国籍)集団の実質的部分*を破壊する意図があればジェノサイド(集団破壊意図要件充足)に該当する可能性があります。

*ウクライナに住んでいる「人」はこれからも納税者として必要ですが、「ウクライナ人」というアイデンティティを持ち続けてる人、特に反体制的思想を持ち行動し得る人がいるのは体制維持のために危険なので、拷問してそういう人かどうか判断しているように見えます(ブチャ等での拷問事例から)。その場合、「反体制因子」という「一部」を破壊する意図をもって行っていれば集団破壊意図要件充足か。

​*標的集団全員を殺害しようとするものである必要はありません。扇動された末端の個人はそのような思想を持つことがありますが、「改宗」させることも目的の一つです。指導部では暴力行為はあくまでアイデンティティを消滅させるのに効果的と考えられた方法と範囲で計画されます。

​ブチャ民家地下で25名程度の14~24歳の女性が監禁され、システマティックに強姦され、複数人は妊娠

→集団の出生を妨げる行為としてのジェノサイド(ICC6(d))該当可能性ありです。

 

保護対象集団の属性

(同一集団が複数の属性を有する場合もああります)

●国民的集団

→カンボジア虐殺におけるベトナム人(Nuon Chea and Khieu Samphan case (ECCC, 2018))

→本件?

●民族的集団

→ルワンダ虐殺におけるツチ族(Akayesu case (ICTR, 1998))

→旧ユーゴ、ボスニアにおける「ボスニャク」人(Krstic case (ICTY, 2001))

→カンボジア虐殺におけるチャム人(Nuon Chea case (ECCC, 2018)

●人種的集団

●宗教的集団

→旧ユーゴ、ボスニアにおけるムスリム(Krstic case (ICTY, 2001))

→カンボジア虐殺におけるチャム人(Nuon Chea case (ECCC, 2018)

*その他の属性(政治的、文化的等)が対象になるかについて議論が続いています。ジェノサイドを国内法で犯罪化した国では異なる属性を保護対象としている者もあります(例えば、「地域的」集団(ルワンダ)。

マリウポリからロシアへの子どもたちの移送(2022年3-4月継続)

 

12万人の子ども両親を殺された上でロシア領域へ移送されているとされます。

​同様の報道はロシア国営放送により報告されています。

ICC規程6条(e)

「当該集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。」

​これは、子どもたちを再教育し文化的背景を塗り替えることでアイデンティティを喪失させることを目的とした移送が念頭に置かれた犯罪構成要件です。

→本件での移送がこの目的で行われたものか、金銭的目的による人身売買なのかの解明が求められます。

2022年5月26日 法律家らによるジェノサイド認定レポート( New Lines Institute for Strategy and Policy (US)& the Raoul Wallenberg Centre for Human Rights (Canada))

IndIndivIndivi

訴追対象の個人 Individuals to be prosecuted

中核犯罪に責任を有する者はいずれかの刑事司法機関による訴追の対象となります。

ICC規程 第25条 個人の刑事責任

1 裁判所は、この規程に基づき自然人について管轄権を有する。

2 裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪を行った者は、この規程により、個人として責任を有し、かつ、刑罰を科される。

3 いずれの者も、次の行為を行った場合には、この規程により、裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪について刑事上の責任を有し、かつ、刑罰を科される。

(a) 単独で、他の者と共同して、又は他の者が刑事上の責任を有するか否かにかかわりなく当該他の者を通じて当該犯罪を行うこと。

(b) 既遂又は未遂となる当該犯罪の実行を命じ、教唆し、又は勧誘すること。

(c) 当該犯罪の実行を容易にするため、既遂又は未遂となる当該犯罪の実行をほう助し、唆し、又はその他の方法で援助すること(実行のための手段を提供することを含む。)。

(d) 共通の目的をもって行動する人の集団による既遂又は未遂となる当該犯罪の実行に対し、その他の方法で寄与すること。ただし、故意に行われ、かつ、次のいずれかに該当する場合に限る。

(i) 当該集団の犯罪活動又は犯罪目的の達成を助長するために寄与する場合。ただし、当該犯罪活動又は犯罪目的が裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪の実行に関係する場合に限る。

(ii) 当該犯罪を実行するという当該集団の意図を認識しながら寄与する場合

(e) 集団殺害犯罪に関し、他の者に対して集団殺害の実行を直接にかつ公然と扇動すること。

(f) 実質的な行為によって犯罪の実行を開始させる行動をとることにより当該犯罪の実行を試みること(その者の意図にかかわりない事情のために当該犯罪が既遂とならない場合を含む。)。ただし、当該犯罪を実行する試みを放棄し、又は犯罪の完遂を防止する者は、完全かつ自発的に犯罪目的を放棄した場合には、当該犯罪の未遂についてこの規程に基づく刑罰を科されない。

4 個人の刑事責任に関するこの規程のいかなる規定も、国際法の下での国家の責任に影響を及ぼすものではない。

第28条 指揮官その他の上官の責任

裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪についての刑事責任であってこの規程に定める他の事由に基づくもののほか、

(a) 軍の指揮官又は実質的に軍の指揮官として行動する者は、その実質的な指揮及び管理の下にあり、又は状況に応じて実質的な権限及び管理の下にある軍隊が、自己が当該軍隊の管理を適切に行わなかった結果として裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪を行ったことについて、次の(i)及び(ii)の条件が満たされる場合には、刑事上の責任を有する。

(i) 当該指揮官又は当該者が、当該軍隊が犯罪を行っており若しくは行おうとしていることを知っており、又はその時における状況によって知っているべきであったこと。

(ii) 当該指揮官又は当該者が、当該軍隊による犯罪の実行を防止し若しくは抑止し、又は捜査及び訴追のために事案を権限のある当局に付託するため、自己の権限の範囲内ですべての必要かつ合理的な措置をとることをしなかったこと。

(b) (a)に規定する上官と部下との関係以外の上官と部下との関係に関し、上官は、その実質的な権限及び管理の下にある部下が、自己が当該部下の管理を適切に行わなかった結果として裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪を行ったことについて、次の(i)から(iii)までのすべての条件が満たされる場合には、刑事上の責任を有する。

(i) 当該上官が、当該部下が犯罪を行っており若しくは行おうとしていることを知っており、又はこれらのことを明らかに示す情報を意識的に無視したこと。

(ii) 犯罪が当該上官の実質的な責任及び管理の範囲内にある活動に関係していたこと。

(iii) 当該上官が、当該部下による犯罪の実行を防止し若しくは抑止し、又は捜査及び訴追のために事案を権限のある当局に付託するため、自己の権限の範囲内ですべての必要かつ合理的な措置をとることをしなかったこと。

ウクライナ国防省は中核犯罪について訴追対象となり得るロシア軍の構成員について個人情報と紛争への参加形態についての情報を公開しています。

全リストはこちらから閲覧可能

ICC規程​ 第28条 指揮官その他の上官の責任

裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪についての刑事責任であってこの規程に定める他の事由に基づくもののほか、

(a) 軍の指揮官又は実質的に軍の指揮官として行動する者は、その実質的な指揮及び管理の下にあり、又は状況に応じて実質的な権限及び管理の下にある軍隊が、自己が当該軍隊の管理を適切に行わなかった結果として裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪を行ったことについて、次の(i)及び(ii)の条件が満たされる場合には、刑事上の責任を有する。

(i) 当該指揮官又は当該者が、当該軍隊が犯罪を行っており若しくは行おうとしていることを知っており、又はその時における状況によって知っているべきであったこと。

(ii) 当該指揮官又は当該者が、当該軍隊による犯罪の実行を防止し若しくは抑止し、又は捜査及び訴追のために事案を権限のある当局に付託するため、自己の権限の範囲内ですべての必要かつ合理的な措置をとることをしなかったこと。

(b) (a)に規定する上官と部下との関係以外の上官と部下との関係に関し、上官は、その実質的な権限及び管理の下にある部下が、自己が当該部下の管理を適切に行わなかった結果として裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪を行ったことについて、次の(i)から(iii)までのすべての条件が満たされる場合には、刑事上の責任を有する。

(i) 当該上官が、当該部下が犯罪を行っており若しくは行おうとしていることを知っており、又はこれらのことを明らかに示す情報を意識的に無視したこと。

(ii) 犯罪が当該上官の実質的な責任及び管理の範囲内にある活動に関係していたこと。

(iii) 当該上官が、当該部下による犯罪の実行を防止し若しくは抑止し、又は捜査及び訴追のために事案を権限のある当局に付託するため、自己の権限の範囲内ですべての必要かつ合理的な措置をとることをしなかったこと。

上官責任

 

文民か軍人かにかかわらず、上官であれば部下が行った犯罪行為に責任が生じます。

​ただし、遠隔地にいる上官が現地での犯罪防止のためにとるべき措置とは、その時点で物質的に利用可能でかつ費用対効果に照らして合理的なものに限られます。

こちらのブログ記事参照。

ベンバ無罪―上官責任に一定の制約か

ICC規程 第31条 刑事責任の阻却事由

1 いずれの者も、この規程に定める他の刑事責任の阻却事由のほか、その行為の時において次のいずれかに該当する場合には、刑事上の責任を有しない。

(a) 当該者が、その行為の違法性若しくは性質を判断する能力又は法律上の要件に適合するようにその行為を制御する能力を破壊する精神疾患又は精神障害を有する場合

(b) 当該者が、その行為の違法性若しくは性質を判断する能力又は法律上の要件に適合するようにその行為を制御する能力を破壊する酩(めい)酊(てい)又は中毒の状態にある場合。ただし、当該者が、酩(めい)酊(てい)若しくは中毒の結果として裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪を構成する行為を行うおそれがあることを知っており、又はその危険性を無視したような状況において、自ら酩(めい)酊(てい)又は中毒の状態となった場合は、この限りでない。

(c) 当該者が、自己その他の者又は戦争犯罪の場合には自己その他の者の生存に不可欠な財産若しくは軍事上の任務の遂行に不可欠な財産を急迫したかつ違法な武力の行使から防御するため、自己その他の者又は財産に対する危険の程度と均衡のとれた態様で合理的に行動する場合。ただし、当該者が軍隊が行う防衛行動に関与した事実それ自体は、この(c)の規定に基づく刑事責任の阻却事由を構成しない。

(d) 裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪を構成するとされる行為が、当該者又はその他の者に対する切迫した死の脅威又は継続的な若しくは切迫した重大な傷害の脅威に起因する圧迫によって引き起こされ、かつ、当該者がこれらの脅威を回避するためにやむを得ずかつ合理的に行動する場合。ただし、当該者が回避しようとする損害よりも大きな損害を引き起こす意図を有しないことを条件とする。そのような脅威は、次のいずれかのものとする。

(i) 他の者により加えられるもの

(ii) その他の当該者にとってやむを得ない事情により生ずるもの

(…)

第33条 上官の命令及び法律の規定

1 裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪が政府又は上官(軍人であるか文民であるかを問わない。)の命令に従ってある者によって行われたという事実は、次のすべての条件が満たされない限り、当該者の刑事責任を阻却するものではない。

(a) 当該者が政府又は当該上官の命令に従う法的義務を負っていたこと。

(b) その命令が違法であることを当該者が知らなかったこと。

(c) その命令が明白に違法ではなかったこと。

2 この条の規定の適用上、集団殺害犯罪又は人道に対する犯罪を実行するよう命令することは、明白に違法である。

責任阻却事由(ICC31)

強制の抗弁(duress)(ICC31(1)(d))

命の危険により犯罪行為を強制された場合、強制の抗弁というのもあります。ただし、無辜の人の殺害にはこの抗弁は使えないという判例があります…(Erdemovic, ICTY)

 

上官命令抗弁(superior order)(ICC33)

以下の条件がそろった場合、上官の命令に従って実行した戦争犯罪について責任が阻却される場合があります。

当該者が

①命令に従う法的義務があり

②命令の違法性を知らず

③命令が明白には違法でなかったこと

ただし、ジェノサイドと人道に対する犯罪については使えません(ICC33(2))。

ウクライナ刑法41条にも規定があります。

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