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ロシア・ウクライナ紛争下での中核犯罪Core Crimes under Russia-Ukraine War 
中核犯罪の帰結
​The consequences of core crimes

法廷での証人

国内裁判

​Domestic trials

コートルーム

特設法廷

Ad hoc Tribunals?

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国際刑事裁判所 

The ICC

法律

移行期正義・恩赦

Amnesty

犯罪現場テープ

​捜査

Investigation

手をつないで

賠償

Reparation

national

国内法上の中核犯罪 Core crimes under national laws 

ウクライナ

 

データベース:ウクライナ国内法(主要法リスト

 

 

ウクライナは刑法で、中核犯罪(平和、人類の安全及び国際法秩序に対する犯罪)について以下のように規定しています。

ウクライナ刑法 第20章 平和、人類の安全及び国際法秩序に対する犯罪(CRIMINAL OFFENSES AGAINST PEACE, SECURITY OF MANKIND AND INTERNATIONAL LEGAL ORDER)

436条 戦争の宣伝(Propaganda of war)

437条 侵略戦争の計画、準備、実行(Planning, preparation and waging of an aggressive war

438条 戦争法規の違反(Violation of rules of the warfare) 

439条 大量破壊兵器の使用(Use of weapons of mass destruction)

440条 大量破壊兵器の開発、生産、購入、備蓄、拡散、移送(Development, production, purchasing, storage, distribution or transportation of weapons of mass destruction)

441条 エコサイド(Ecocide)

442条 ジェノサイド(Genocide)

443条 外国国家代表の生命に対する侵害(Trespass against life of a foreign state representative)

444条 国際的に保護された人及び機関に対する犯罪(Criminal offenses against internationally protected persons and institutions)

445条 赤十字、赤新月、赤クリスタルのシンボルの違法な使用(Illegal use of symbols of Red Cross, Red Crescent, Red Crystal)

446条 海賊(Piracy)

447条 傭兵(Mercenaries)

(出典:Sherloc(国連薬物犯罪事務所(UNODC)のデータベース)

・特徴として、エコサイドや傭兵といった、国際法では明確に犯罪とは規定されていない犯罪が規定されていることがあげられます。また、侵略犯罪を国内法で規定する数少ない国といえます(ただしその定義はICC規程とは大幅に異なる)。

・本件との関係では、438条(戦争法規の違反)は非常に簡潔な規定しかない(2項目のみ)ですが、これはウクライナが当事国となっている関連条約に準拠する形になっているため、国際法上の戦争犯罪が網羅されていると理解できます。

また、人道に対する犯罪に関する規定は見られません。

 

ウクライナ刑法438条

1 捕虜又は文民の虐待、強制労働のための文民の追放、占領領域における国家財産の略奪、国際文書により禁止される戦争方法の使用、ウクライナ議会により拘束的なものであると同意された国際文書により承認されたその他の戦争法規の違反及びそれらの行為を命じた者は、8年以上12年以下の拘禁刑に処する。

2 同一の行為で故意殺人が伴う場合には、10年以上15年以下の拘禁刑又は終身刑に処する

国内での証拠収集

検察官事務所が記録した事件数

3月24日時点:2472件

5月26日時点:13983件

検事総長:アンドリー・コスチン(2022年7月27日着任)(前任者:イリーナ・ウェネディクトワ(2022年7月18日解任))

ウクライナ検察庁HP

ウクライナ法務省HP

戦争犯罪を記録するためのウクライナ国内の警察、検察庁による共通ウェブサイト

warcrimes.gov.ua

ウクライナにおけるキャパシティ・ビルディングーMATRA プログラム

 

旧共産国の民主化という欧州評議会の任務の一つとして、オランダは1993年以降、ウクライナにおいて社会変革のためのMATRA (MAatschappelijke TRAnsformatie: social transformation)プログラムを実施しています。

その一つとして、今般新たに設置されたウクライナにおける戦争犯罪局(War Crimes Unit)を支援するための「国際犯罪を捜査訴追するウクライナの能力の強化」プロジェクトがTMC Asser InstituteとGlobal Rights Complianceの協働で行われています。

MATRAプログラム:

参照:

About MATRA-Ukraine (TMC Asser Institute)

The Matra Programme (Kingdom of the Netherlands)

参照

International crimes in Ukraine (TMC Asser Institute)

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ウクライナにおけるロシア兵の戦争犯罪裁判

シシマリン事件
  • 判決(計17件、25名)

    • シシマリン事件

      • ​文民殺害

      • 5月23日 第一審有罪(終身刑)

      • 7月29日 控訴審有罪(15年の拘禁刑へ減軽)

    • ボビキン&イヴァノフ事件

      • 民用物破壊

      • 5月31日 第一審有罪(11年6ヶ月の拘禁刑)

      • ​イヴァノフは捕虜交換でロシアに帰国

    • クリコフ事件

      • 民用物破壊

      • 8月8日 有罪(10年の拘禁刑)

    • ザカロフ事件

      • 略奪

      • 8月3日 有罪(12年の拘禁刑)

    • フィラトフ事件

      • 略奪

      • 8月31日 有罪(8年6か月の拘禁刑)

    • スタイナー事件(欠席裁判)

      • 民用物破壊

      • 略奪

      • ​9月26日 有罪(9年の拘禁刑)

    • クリエフ&チューディン事件​(欠席裁判)

      • ​性的ハラスメント

      • ​2022年11月2日 有罪(クリエフ12年、チューディン10年の拘禁刑)

    • シュルトゥモフ&アガナエフ(欠席裁判)

      • 拷問、略奪​

      • 2022年12月2日 有罪、両者12年の拘禁刑

    • コレスニコフ&イヴァノフ&ヴォルヴァク&ビチ事件(ハルキウ拷問事件)

      • ​拷問

      • 2022年12月24日 有罪(11年の拘禁刑)

    •  Novy Bykiv事件1(欠席裁判)

      • 虐待、拘禁

      • 2022年11月24日 有罪(10年の拘禁刑)

    •  Novy Bykiv事件2(欠席裁判)

      • ​虐待、わいせつ

      • 2022年1月25日 有罪(11年の拘禁刑)

    • シェムバゾフ&チシェニン事件(欠席裁判)

      • ​拷問

      • 2022年12月19日 有罪(シェムバゾフ10年、チシェニン9年の拘禁刑)

    • コテルバ略奪事件(欠席裁判)

      • ​略奪

      • 2022年12月26日 有罪(9年の拘禁刑)

    • チェルニヒウ脅迫事件(欠席裁判)

      • ​脅迫

      • 2023年1月10日 有罪(10年の拘禁刑)

    • チェルニヒウ虐待事件(欠席裁判)

      • ​虐待

      • 2023年1月12日 有罪(3名にそれぞれ12年の拘禁刑) 

    • 徴兵事件(欠席裁判)

      • 敵国への徴兵

      • 2023年1月30日 有罪(11年の拘禁刑)

    • クズネツォフ事件(欠席裁判)

      • ​拷問

      • ​2023年2月17日 有罪(12年の拘禁刑)

  • 公判

    • ロマノフ事件(欠席裁判)

      • 強姦

      • 6月24日 公判開始

  • 予審(被告人不在)​

    • ズラフレフ事件

      • 民用物破壊

      • 8月9日 予審開始

 

​​*2023年2月6日現在(詳細は下記)

​出典:

​クライナ裁判記録データベース https://reyestr.court.gov.ua/

JusticeInfo.net https://www.justiceinfo.net/en/regions/ukraine

Sudreporter (in Ukranainian)https://sudreporter.org/

2022年5月13日 ソロミアンスキー地方裁判所(キーウ)において公判開始

・ワディム・シシマリン​(Vadim Shishimarin)被告人は21歳、戦車部隊の分隊長

・2月28日、ウクライナ北東部スムイ州にある村で非武装の62歳の民間人男性に発砲し、殺害したとされる

(攻撃を受けたシシマリン被告は他の4人の兵士とともに盗難車で村を走行中、自転車に乗って電話をしていた62歳の男性と遭遇。 シシマリン被告はウクライナ軍への通報を恐れて窓を開けた車内から自動小銃で男性に発砲)

・罪状は殺人罪と戦争法規の違反(10年から15年の禁固、または終身刑)の2つ
・無償の弁護士がついています
・取り調べ中に罪を認め、公判中も「完全な有罪の答弁(full guilty plea)」をおこないました
・本人が使用したカラシニコフ銃も押収されています

2022年5月20日 最終弁論

・被告人:「後悔している、そのときはナーバスだった、殺したくなかった」

・弁護人:「彼は2回命令を拒否した」「3.4回発砲したが、文民に当たらなければよいと思っていた」 「裁かれるべきは彼ではなく別の国にいる」

・検察 :命令した2人は違う部隊所属で命令に従う義務はなかった、ロシア軍規にも文民を殺害してよいという条項はない、これらを知った上で文民に発砲した、意図的に殺害したということだ

2022年5月23日 有罪判決

・ソロミアンスキー地方裁判所は有罪を認定し終身刑を宣告(判決文:ウクライナ裁判記録データベース、PDFウクライナ語英語訳(非公式))

 

​2022年7月29日 キーウ控訴審 15年の拘禁刑への減軽

Irina Salii, "Ukraine Opens First War Crime Trial of a Russian Soldier" (Justiceinfo.net, 17 May 2022).

Irina Salii, "First Ukraine War Crime Trial Through The Eyes Of A Local Court Reporter" (Justiceinfo.net, 24 May 2022)

The appellate court gave Russian military officer Shishimarin 15 years instead of life (in Ukranian) (Court Reporter, Friday, July 29, 2022, 12:09 p.m)

 

シシマリン事件事実.jpg

2022年5月23日 判決と刑の言渡しのライブ中継動画

​検察局による発表はこちら

ボビキン&イヴァノフ事件
ロマノフ事件

2022年5月19日 コテルヴァ地方裁判所(キーウ)において公判開始


・被告人:アレクサンドル・ボビキン(Aleksandr Bobykin)、アレクサンドル・イヴァノフ(Aleksandr Ivanov)

・侵攻初日にハルキウ地域に対してロケットランチャーを発射し住居や文化会館等の民用物を破壊したことによる戦争法規の違反
・2人とも罪を認めている
・12年の禁固刑になる予定

(逮捕の経緯)24日ウクライナ側が当該軍用車列隊を打倒し、Ivanovは投降。Bobykinは負傷しソルネチニー小児病棟や空のアパートに10日間潜伏していたが近所のパトロール隊に発見された。

・検察側は、2人が自白していることを受けて証拠調べの省略を提案し被告人も合意しているが裁判所はこれを拒否

2022年5月26日 公判

​2022年5月31日 有罪判決

・量刑は求刑から半年減刑の11年6ヶ月。完全な自白と、砲撃の状況の証拠に関する調査への協力により示された誠実な反省が考慮

・ただし加重事由として、非常に危険な方法で実行される共謀があげられた

 Yehor Rud, “Two Russian Soldiers Are Convicted In Ukraine’S Second War Crimes Trial” (Justiceinfo.net, 3 June 2022)

​2022年11月18日 イヴァノフ釈放

・捕虜交換のため釈放

・捕虜交換について裁判所と検察官が承認

・ 引渡先で刑が継続されるかどうかは不明

The convicted gunner of the Russian "Hrad" was officially exchanged (Sudreporter, 18 November 2022)

2022年5月30日 事件がソロミアンスキー地方裁判所(キーウ)に付託

・被告人:ミハイル・ロマノフ(Mikhail Romanov)

・2022年3月9日にキエフ州ブロバルイ地区の家に侵入し、夫を殺害し、他の兵士とともに妻を繰り返しレイプしたとされる

 

2022年6月24日 公判開始(欠席裁判)

*ウクライナは欠席裁判を基本的には禁止「侵略国に逃亡している容疑者」については例外(2015年1月と2021年4月の改正刑訴法323条)

Irina Salii, “Ukraine: The First War Time Rape Trial Is Held In Absentia And Behind Closed Doors” (Justiceinfo.net, 14 July 2022)

クリコフ事件

2022年6月30日 デスニアン裁判所(チェエルニヒウ) 公判開始

・被告人:ミハイロ・クリコフ(Mykhailo Kulikov) 

・2022年2月26日チェルニヒウで2つの住居を戦車からの砲撃で破壊

・被告人は罪を認めている

・人命が失われていないため、有罪の場合は8-12年の禁固刑になる可能性

・被告人に命令を下したMajor Leonid Shchyotkinは捕虜交換でロシアに帰国

2022年7月19日 公判

・被告人は、住居であり軍事施設でないと認識したうえで発砲したことを認めた

​・建物のの所有者、および逃走中に隠れ家とした住居の住人に対して脅したことについて謝罪

2022年8月4日 公判

2022年8月8日 有罪判決

・10年の拘禁刑

・民用物破壊の罪で最高刑は12年だが、真摯な反省と捜査協力が勘案された

・上官命令の抗弁は、違法な命令には適用なしとの判断

IRINA SALII, WAR CRIMES TRIAL IN CHERNIHIV: "THERE IS AN OATH TO CARRY OUT THE COMMANDER'S ORDERS" (JusticeInfo.net, 28 July 2022)

"We were used to this. I just couldn't get out and leave the tank." The court questioned the tanker who fired at a civilian high-rise building (Court Reporter, 19 July 2022) (in Ukrainian)

ザハロフ事件

・被告人:セリー・ザハロフ(Serhiy Zakharov)(サマラ出身)

2022年8月3日 シェウチェンキウ地方裁判所(キーウ) 有罪判決

・2022年3月3日 キエフ地方ペレモガ村で住民宅に侵入し3万円相当の宝飾品を略奪した戦争犯罪

・2022年3月30日 退却中にチェルニヒウ地域ノヴァ・バサン村で降伏

・公判で罪を認め証言、簡易裁判に同意

・12年の拘禁刑(438条1項の最高刑)

*戦時下での略奪はジュネーブ諸条約33条2項で禁止されていますが、広範な徴発とまで言えない場合戦争犯罪と言えるかは議論の余地あり

Looted women's jewelry: in Kyiv, a captured Russian soldier was sentenced to 12 years in prison (Sudreporter, 3 August 2022) (in Ukrainian)

2022年10月24日 捕虜交換決定

・戦争捕虜の治療のための調整本部の認定機関は、敵の戦争の移送と侵略国家の捕虜になっているウクライナの擁護者の釈放のためのリストを承認

・ザハロフの交換を決定

・ザハロフは反対しないという書面による声明を提出

・検察官は裁判所に刑の執行の免除を請求

・法廷審問で、ザハロフが交換を支持

Another soldier of the Russian Federation, who was tried for robbery in the Kyiv region, was officially exchanged 

(Sudreporter, 3 August 2022) (in Ukrainian)

ズラフレフ事件

2022年8月9日 予審開始

・被告人:アナトリー・ズラフレフ(Anatoliy Zhuravlev)(sergeant)

・ウクライナ・スムイ地方で3月23日に病院攻撃を命じた

・攻撃当時スタッフと患者が病院内にいた

The tank commander of the "Kantemirivska" division is suspected of ordering to shoot at the hospital in Trostyanka (Sudreporter, 9 August 2022)

フィラトフ事件

2022年8月19日 準備手続開始

 Novozavodsk district court of the city of Chernihiv

・布告人:ニコライ・フィラトフ(Nikolai Filatov)

・発電機とアクセサリーを強奪した事案

・発電機については軍事的必要性があったとして戦争犯罪としては訴追されない模様

・妻からの誕生日プレゼントの鎖を強奪した罪

・袖章の名前から犯人特定

・検察官は9年の求刑

2022年8月31日 有罪判決

・8年6か月の禁固刑(求刑から半年の減軽)

・ 被害者男性(アクセサリーの所持者)に対して謝罪したことが考慮されたよう

・強奪されたアクセサリーは行方不明

"It's a shame." How the downed Russian tanker was tried in Chernihiv Oblast (Sudreporter, 31 August 2022)

スタイナー事件

・被告人:セルヒー・スタイナー(Serhiy Steiner)(Lieutenant )

2022年9月26日 有罪判決

・9年の拘禁刑

・刑法438条2項

・部下に戦車で自家用車を踏み潰させるなどを文民の虐待

・欠席裁判

 

(犯人の身柄がなくとも犯罪の宣言は被害者にとって意味があり、今後他の事件の可能性も開けた)

IRYNA DOMASCHENKO, UKRAINE: FIRST VERDICT IN ABSENTIA FOR RUSSIAN WAR CRIMES (JusticeInfo.net, 29 September 2022)

クリエフ&チューディン事件

2022年7月27日 予審開始

・被告人:ルスラン・クリエフ(Ruslan Kuliev)、アンドリー・チューディン(Andrii Chudin)(Sergeant )

・チェルニヒウで民家にとどまり、住民の兄を縛り屋外に4日間放置した上、16歳の妹に性的ハラスメントを行った

・複数回メディアを通じて召喚を行ったが応答がなかったため、裁判官は欠席での裁判開始を決定

・弁護人が任命

・民家を離れる際に置いて行った電話番号や腕章の名前から身元が判明

・兄および同居していた叔母が証言

・被害に遭った少女の聴取録画を用いることができるため、トラウマをもたらしかねない2回目の聴取や法廷での証言は不要(改正刑訴法615条)。

 

2022年11月2日 有罪判決

・クリエフ12年、チュディン10年の禁固刑

・被告人不在のまま欠席で裁判

・ロシアによるウクライナ侵攻下での性的暴力事件に対する初の判決

欠席裁判の感想を聞かれた被害者(兄) 「彼らに責任を負ってもらいたい。チュディンは妹に触れなかったし別に何かされたと感じない。でもクリエフ!たとえ投獄されても、彼は自分の罪を悟ることはないだろう。僕はおそらく彼をリンチしただろう」「 朝起きて、それが夢だったことに気づきたい」

 IRYNA SALII, FIRST SENTENCE FOR SEXUAL VIOLENCE IN THE UKRAINE WAR (JusticeInfo.net, 10 November 2022)

A phone number was left at the scene of the crime. In Chernihiv, a trial on the sexual harassment of a minor by the occupier begins (Sudreporter, 29 September 2022) (in Ukrainian)

シュルトゥモフ&アガナエフ事件
コレスニコフ&イヴァノフ&ヴォルヴァク&ビチ事件(ハルキウ拷問事件)

 

・被告人:ルスラン・コレスニコフ(Ruslan Kolesnikov)、ミハイル・イヴァノフ(Mikhail Ivanov)、マクシム・ヴォルヴァク(Maksim Volvak)、ヴァレンティン・ビチ(Valentin Bich)

・占領下のハルキウで住民を拷問した

 

2022年12月24日 有罪判決

・戦争犯罪で11年の拘禁刑

Irina Salii, UKRAINE: FOUR RUSSIAN SOLDIERS CONVICTED FOR TORTURE (JusticeInfo.net, 23 January 2023)

"There was a bit of pressure, of course." Four servicemen of the Russian Federation were convicted of torturing former participants of the anti-terrorist operation (Sudreporter, 24 december 2022)

・被告人:バヤシャラン・シュルトゥモフ(Bayashalan Shultumov)、パベル・アガナエフ(Pavel Aganayev)

2022年12月2日 有罪判決

・キエフ・スヴャトシンスキー地方裁判所

​・戦争犯罪で12年の拘禁刑

・欠席裁判

・3月1日12時ごろ、ブチャンスキー地区のブゾヴァ村の民家に侵入 ・住民を威嚇し、武器で脅した ・女性と未成年の子供たちの前で 4 人の男性を殴り、拷問 ・家の居住者の所持品から合計50,000ドルを略奪。

Two Russian soldiers from Buryatia were sentenced to 12 years (Sudreporter, 29 September 2022) (in Ukrainian)

digi

捜査 Investigation

国際刑事司法協力 International legal assistance

ユーロジャスト合同捜査チーム(JIT)(リトアニア、ポーランド、ウクライナ)(2022年3月28日~)

・3か国での合同捜査チーム(他のEUメンバーの追加もできる)

・証拠収集、パートナー間での迅速な交換、情報及び証拠の移送プロセスの支援、国内捜査・検察当局間の調整など

​・国際刑事裁判所(ICC)が参加(2022年4月25日)

・エストニア、ラトビア、スロバキアが参加(2022年5月31日)

​●公式

Eurojust supports joint investigation team into alleged core international crimes in Ukraine

ICC participates in joint investigation team supported by Eurojust on alleged core international crimes in Ukraine

​●この合同捜査の行方についての記事

UKRAINE, ICC AND EUROJUST: HOW WILL THAT WORK (Justiceinfo. net)

残虐犯罪諮問グループ(Atrocity Crimes Advisory Group (ACA))(米、英、EU)(2022年5月25日~)

・ウクライナ検察局内の戦争犯罪局が行う侵攻中のロシアによるウクライナ侵攻の文脈で生じる残虐犯罪の責任追及努力を支援するもの

Advisory Group to the OPG:

・メンバーは、残虐犯罪捜査・訴追の経験のある検察官、捜査官、軍事分析官、検視官等の実務家

・ウクライナ検察局や関連ステークホルダーへの専門的知見の提供、監視、アドバイス、実践的支援

・グッドプラクティスの確保、手続きの重複回避、資金の迅速な獲得等

 

Mobile Justice Teams:

・ウクライナ検察と地方検察官の現場捜査を行う能力向上

​・国際専門家とウクライナ専門家により構成される

​●共通文言での説明

米国政府 The European Union, the United States, and the United Kingdom establish the Atrocity Crimes Advisory Group (ACA) for Ukraine

英国 EU, US, and UK establish Atrocity Crimes Advisory Group (ACA) for Ukraine: joint statement

EU Ukraine: The European Union, the United States, and the United Kingdom establish the Atrocity Crimes Advisory Group (ACA) for Ukraine

ウクライナ・アカウンタビリティ閣僚会議の政治宣言(Political Declaration of the Ministerial Ukraine Accountability Conference)

2022年7月15日  Ukraine Accountability Conference

・ハーグでウクライナの戦争犯罪の合同捜査の方針を定める45カ国による政治宣言が採択(日本は会議自体には参加しているが不署名)

・重複捜査による証人への過度の負担やセカンドレイプ等への注意喚起等

・署名したのは米国と欧州連合(EU)全加盟国のほか、英国、カナダ、メキシコ、オーストラリアなど

・ICC、ウクライナ検事総長室、国連の支援活動に2000万ユーロの資金を拠出することを約束

​その他

​デジタル・オープン・ソースによる証拠収集 Digital open-source evidence gathering

 

カメラ付携帯電話・SNSの普及により、近年の国際刑事司法では、一般市民により録音・録画された情報が重要な証拠となることも増えています。メディアや一般市民により記録されオンライン公開された情報を収集・分析し利用可能にする動きが活発になっています。

以下の団体などが有名です。

Truth Hounds

2014年以降ウクライナでの戦争犯罪の証拠を記録する団体。

Mnemonic

​シリア紛争等から始まったオープンソース証拠収集のノウハウをウクライナに共有している団体として、以下。

デジタル・オープン・ソース捜査に関するバークレー・プロトコル

​被疑者身柄確保の可能性 The possibilities of capturing the suspects

被疑者身柄拘束に関して、正攻法と違法なやり方について過去の事例を紹介します。

もっとも一般的なやり方

①捕虜として拘束

②国内捜査当局により拘束

投降

①国内捜査当局に投降

②何らかの国際機関に投降(現地で活動する機関等)

違法な事例

​①拉致

・アイヒマン裁判(ナチス):イスラエルが特殊部隊を逃亡先のアルゼンチンに送り道端で拉致→裁判→死刑。アルゼンチン主権侵害等について国連安保理決議もでています(S/RES/138 (1960))。イスラエル法廷でもこうした裁判の合法性について争われましたが、裁判所は「male captus bene detentus(悪く逮捕され、正しく拘束される)」という原則を採用し裁判を続けました。

・ニコリッチ事件(旧ユーゴ):「身元不明の」個人により車のトランクに詰め込まれた容疑者が平和安定化部隊に引渡→裁判→20年禁固刑。

国際刑事裁判所
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国際刑事裁判所 International Criminal Court 

2023年5月13日 国際刑事裁判所(ICC)によるプーチン大統領・リボワベロワ全権代表に対する逮捕状発付について
→詳しくはこちら

2022年3月2日、国際刑事裁判所(ICC)検察官は、39か国の締約国からのウクライナ事態の付託を受けたと発表しました。
今後、ICC検察官は捜査を開始することが見込まれるが、今回の事例は、締約国付託と検察官の自己の発意による捜査が並走する初の事例となりました。

 

*国際刑事裁判所(ICC)は、1998年に採択された多国間条約「国際刑事裁判所に関するローマ規程」(ICC規程、規程)に基づきオランダのハーグに設置された刑事裁判所です。

中核犯罪を行ったとされる自然人を訴追し、有罪を認定した場合処罰(拘禁刑のみ)を科すことができます。

18歳以上の自然人により2022年7月1日以降に世界のいかなる場所で行われた中核犯罪について管轄権を有するが、その行使のための条件が定められています。

​ ★国際刑事裁判所(ICC)について初心者です、という方向けの解説ページは こちら

 ★ICCのウクライナ事態に関する公式ページは、こちら

​以下では、本件に関する管轄権行使のための条件について解説します。

ICC規程上の関連規定

管轄権

事項的管轄権

5条 裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪

1 裁判所の管轄権は、国際社会全体の関心事である最も重大な犯罪に限定する。裁判所は、この規程に基づき次の犯罪について管轄権を有する。

(a) 集団殺害犯罪

(b) 人道に対する犯罪

(c) 戦争犯罪

(d) 侵略犯罪

2 第百二十一条及び第百二十三条の規定に従い、侵略犯罪を定義し、及び裁判所がこの犯罪について管轄権を行使する条件を定める規定が採択された後に、裁判所は、この犯罪について管轄権を行使する。この規定は、国際連合憲章の関連する規定に適合したものとする。

場所的管轄権

定め無し

時間的管轄権

11条 時間についての管轄権

1 裁判所は、この規程が効力を生じた後に行われる犯罪についてのみ管轄権を有する。

人的管轄権

25条 個人の刑事責任

1 裁判所は、この規程に基づき自然人について管轄権を有する。

26条 十八歳未満の者についての管轄権の除外

裁判所は、犯罪を実行したとされる時に十八歳未満であった者について管轄権を有しない。

管轄権行使条件

事態付託・検察官の自己の発意による捜査

12条 管轄権を行使する前提条件

1 この規程の締約国となる国は、第五条に規定する犯罪についての裁判所の管轄権を受諾する。

2 裁判所は、次条(a)又は(c)に規定する場合において、次の(a)又は(b)に掲げる国の一又は二以上がこの規程の締約国であるとき又は3の規定に従い裁判所の管轄権を受諾しているときは、その管轄権を行使することができる。

(a) 領域内において問題となる行為が発生した国又は犯罪が船舶内若しくは航空機内で行われた場合の当該船舶若しくは航空機の登録国

(b) 犯罪の被疑者の国籍国

3 この規程の締約国でない国が2の規定に基づき裁判所の管轄権の受諾を求められる場合には、当該国は、裁判所書記に対して行う宣言により、問題となる犯罪について裁判所が管轄権を行使することを受諾することができる。受諾した国は、第九部の規定に従い遅滞なくかつ例外なく裁判所に協力する。

13条 管轄権の行使

裁判所は、次の場合において、この規程に基づき、第五条に規定する犯罪について管轄権を行使することができる。

(a) 締約国が次条の規定に従い、これらの犯罪の一又は二以上が行われたと考えられる事態を検察官に付託する場合

(b) 国際連合憲章第七章の規定に基づいて行動する安全保障理事会がこれらの犯罪の一又は二以上が行われたと考えられる事態を検察官に付託する場合

(c) 検察官が第十五条の規定に従いこれらの犯罪に関する捜査に着手した場合

14条 締約国による事態の付託

1 締約国は、裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪の一又は二以上が行われたと考えられる事態を検察官に付託することができるものとし、これにより、検察官に対し、そのような犯罪を行ったことについて一人又は二人以上の特定の者が訴追されるべきか否かを決定するために当該事態を捜査するよう要請する。

2 付託については、可能な限り、関連する状況を特定し、及び事態を付託する締約国が入手することのできる裏付けとなる文書を添付する。

時間

11条 時間についての管轄権

2 いずれかの国がこの規程が効力を生じた後にこの規程の締約国となる場合には、裁判所は、この規程が当該国について効力を生じた後に行われる犯罪についてのみ管轄権を行使することができる。ただし、当該国が次条3に規定する宣言を行った場合は、この限りでない。

事件の受理許容性

​17条 受理許容性の問題

1 裁判所は、前文の第十段落及び第一条の規定を考慮した上で、次の場合には、事件を受理しないことを決定する。

(a) 当該事件がそれについての管轄権を有する国によって現に捜査され、又は訴追されている場合。ただし、当該国にその捜査又は訴追を真に行う意思又は能力がない場合は、この限りでない。

(b) 当該事件がそれについての管轄権を有する国によって既に捜査され、かつ、当該国が被疑者を訴追しないことを決定している場合。ただし、その決定が当該国に訴追を真に行う意思又は能力がないことに起因する場合は、この限りでない。

(c) 被疑者が訴えの対象となる行為について既に裁判を受けており、かつ、第二十条3の規定により裁判所による裁判が認められない場合

(d) 当該事件が裁判所による新たな措置を正当化する十分な重大性を有しない場合

2 裁判所は、特定の事件において捜査又は訴追を真に行う意思がないことを判定するため、国際法の認める適正な手続の原則を考慮した上で、妥当な場合には、次の一又は二以上のことが存在するか否かを検討する。

(a) 第五条に規定する裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪についての刑事責任から被疑者を免れさせるために手続が行われた若しくは行われていること又はそのために国の決定が行われたこと。

(b) その時の状況において被疑者を裁判に付する意図に反する手続上の不当な遅延があったこと。

 

(c) 手続が、独立して又は公平に行われなかった又は行われておらず、かつ、その状況において被疑者を裁判に付する意図に反する方法で行われた又は行われていること。

 

3 裁判所は、特定の事件において捜査又は訴追を真に行う能力がないことを判定するため、国が自国の司法制度の完全又は実質的な崩壊又は欠如のために、被疑者を確保し、若しくは必要な証拠及び証言を取得することができないか否か又はその他の理由から手続を行うことができないか否かを検討する。

*
ただし、侵略犯罪についてはこれらの管轄権行使条件に加えて別の行使条件があります(後で詳述)。

(外務省公定訳)

管轄権行使条件

前提

ICCの捜査ICC検察官が捜査を行うのは、

①ICC規程締約国または国連安保理による事態付託がある場合か、

②検察官が自己の発意で着手する場合です。

ウクライナ:ウクライナはICC規程締約国ではありません。ICC規程12条3項に従った「管轄権受諾宣言」を行っています。ウクライナによる「管轄権受諾宣言」はもともと2013年11月21日~2014年2月22日までの期間に限定されていました。その後ウクライナは2回管轄権受諾範囲を拡大する宣言を行い、2015年の宣言では、2014年2月20日以降(onwards)という 、将来にわたって制限のない管轄権受諾を行っています。

ロシア:ロシアはICC規程締約国ではありません。

検察官による自己の発意による捜査許可要請

捜査許可は、ICC検察官の自己の発意による捜査の場合、すなわち、締約国や国連安保理からの事態付託がまだない状態でICC検察官が独自に行う捜査の場合に必要な手続です(ICC規程15条)。

予審裁判部による捜査許可決定を受けるまでは、ICC検察官は予備的検討(preliminary examination)を行います。

本件に関しても、ICC検察官は2013年11月21日以降のウクライナ事態について予備的検討を続けてきました。

2022年2月28日、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、予審裁判部に捜査許可決定を要請しています。

 

(捜査許可決定の要請自体は、ICC検察官自身が「捜査を進める合理的な基礎」が「ある」ことを、手持ちの証拠資料を基に結論した場合に行う(同3項)。また、捜査許可するかの審査において、予審裁判部は「捜査を進める合理的な基礎」が「ある」ことに加え、「管轄権の範囲にあるかどうか」を判断する(同4項))


事態付託

本件では、この捜査許可決定を要請し、この決定が出るのを待っている期間に、締約国付託が行われました。

2022年3月2日、国際刑事裁判所(ICC)検察官は、39か国の締約国からのウクライナ事態の付託を受けたと発表しました。

2022年3月11日に、日本と北マケドニアの2国が追加で事態付託しています(日本にとっては初の事態付託)。また2022年3月21日にはモンテネグロ、2022年4月1日にはチリが参加しています。


今回の事例は、締約国付託と検察官の自己の発意による捜査が並走する初の事例となりました。

付託がある場合、手続は検察官付託の場合とはある意味逆になります。すなわち、検察官は「捜査を進める合理的な基礎」が「ない」と決定しない限り、または重大性等のその他の基準が満たされてい「ない」と判断しない限り、捜査を開始しなければなりません(53条1項)。本件では検察官はすでに捜査許可決定を要請しているので、「捜査を進める合理的な基礎」やその他の基準が満たされていることを確認していることになります。「捜査を進める合理的な基礎」やその他の基準が満たされていると判断している以上、手続的には、先に出した捜査許可決定の要請は却下された上で、締約国付託の場合の手続(53条手続)が優先し、検察官は捜査を開始しなければならない、ことになるといえます。

「事態」の範囲に関する問題

今回の事例では、イギリスを代表とした38か国(厳密には、2日の段階ではスウェーデンとブルガリアは最終決定をしていなかったよう)による合同付託と、リトアニアによる付託(のような文書)が提出されている。合同付託の方は、何を付託するかについて、「2013年11月21日以降、ウクライナ領域において発生したとされるすべての戦争犯罪、人道に対する犯罪、およびジェノサイドについて、そしてウクライナ領域全域において現在、および現在進行形で行われれている犯罪(any acts of war crimes, crimes against humanity and genocide alleged to have occurred on the territory of Ukraine from 21 November 2013 onwards, including any allegations of current and ongoing crimes occurring throughout the territory of Ukraine)」としている。(リトアニアの文書は曖昧であるが、「the Republic of Lithuania refers to Article 14 of the Rome Statute for launching an investigation into the situation in Ukraine.」とあり、これは「事態を付託する(refer a situation)」(14条)というより、「14条に言及して、ICCに捜査を開始することを依頼」しているようである。)これらの付託は、2022年のロシア侵攻を念頭になされたものと一般には想定されるが、これまで予備的検討しかできなかった2013年11月の事態についても、(付随的に)捜査を本格化することができるようになったといえる。ただし、第4のICC管轄犯罪である侵略犯罪については付託に入っていない。特定犯罪のみを事態から除くことは手続き上認められていないはずであるが、いずれにせよ、侵略犯罪に関してはウクライナもロシアもICC締約国でなく、そのため当然に侵略犯罪への管轄権を認める2010年改正決議を批准していないことから、侵略犯罪は管轄外となるといえる(後述)。

侵略犯罪に関するICC管轄権

ICC規程は5条で侵略犯罪を管轄犯罪とすることを規定していますが、その定義や範囲については2010年のICC規程改正決議(カンパラ決議)で決定しました。その際、侵略犯罪について管轄権を行使で

きる条件が定められました。

侵略犯罪へのICC管轄権行使条件

侵略を行った者の国籍国、または侵略行為が行われた領域国が改正決議を受諾していない場合、ICCは管轄権を行使できないというものです(121条5項、15条の2、アクティベーション決議主文2)。

ただし、安保理が事態を付託した場合は別です。

現在の改正批准国一覧

本件の場合

ウクライナもロシアもICC規程締約国ではないため、そもそもカンパラ決議を受諾できません。

ただしウクライナはICC管轄権行使を受諾(12条3項)しているので、この手続を通じて侵略犯罪に対する管轄権行使も受諾できる可能性があります。

​その場合でも、侵略行為を行ったと疑われる者の国籍国(本件の場合ロシア)が締約国でなく、またカンパラ決議を受諾していないので、管轄権行使できません。

15 条の2 侵略犯罪についての管轄権の行使 (国の自発的付託)

1.裁判所は、この条の規定に従うことを条件として、第 13 条(a)および(c)項に従って侵略犯罪につ いての管轄権を行使することができる。

2.裁判所は、侵略犯罪に関する管轄権については、30 の締約国が改正条項の批准または受諾を行っ た1年後にのみ行使することができる。

3.裁判所は、規程の改正の採択のために必要とされるのと同じ締約国の多数により 2017 年1月1 日以降に行われる決定に従うことを条件として、本条に従って侵略犯罪についての管轄権を行使する ものとする。

4.裁判所は、締約国が、裁判所書記に対して行う宣言によりかかる管轄権を受諾しないことを事前 に宣言していない限り、第 12 条に従って、締約国が行った侵略行為から生じる、侵略犯罪について の管轄権を行使することができる。かかる宣言の撤回は、いつでも効力を有することができ、また3 年以内に当事国により検討されるものとする。

5.本規程の当事国でない国に関しては、裁判所は、その国の国民またはその領域において行われた 侵略犯罪についてその管轄権を行使しないものとする

6.検察官が、侵略犯罪に関する捜査を進める合理的な基礎があると結論する場合には、まず最初に 安全保障理事会が関係国により行われた侵略行為について決定を下したか否かを確かめるものとす る。検察官は、あらゆる関連情報および文書を含む、裁判所における事態を、国際連合事務総長に通 知するものとする。

7.安全保障理事会がかかる決定を下した場合には、検察官は侵略犯罪に関する捜査を進めることが できる。

8.通報の日から6か月以内にかかる決定が下されない場合には、検察官は、予審裁判部が第 15 条 に規定する手続に従って侵略犯罪に関する捜査の開始を許可したこと、および安全保障理事会が第 16 条に従って別段の決定をしていないことを条件として、侵略犯罪に関する捜査を進めることができる。

9.裁判所以外の機関による侵略行為の決定は、本規程の下での裁判所独自の認定に影響を及ぼすも のではない。

10.本条は、第5条に言及されている他の罪に関する管轄権の行使に関する規定に影響を及ぼすもの ではない。

​(下線筆者)

​(国連広報センター

Ad

​特設法廷 Ad hoc tribunals

ICCのほか、過去には特定の犯罪自体に対して特別の法廷を国際的に設置して対処した例があります。

前例

第二次大戦後処理の国際法廷

第二次世界大戦後のドイツと日本の「平和に対する罪」を裁いたいわゆるニュルンベルク裁判と東京裁判のような形が前例としてあります。

ニュルンベルク裁判(国際軍事法廷(IMT))は、ロンドン協定という米国、英国、フランス、ロシアによる条約に基づいて設置されました。

東京裁判(極東国際軍事法廷(IMTFE))は、米国により設置されています。

国連安保理事会決議による特設法廷

1991年のユーゴ紛争に際して国連安保理は、紛争下で生じたいわゆる民族浄化等の犯罪行為に対して国際法に基づき実行者を処罰する必要性を認定し、国連憲章第7章に基づいて旧ユーゴ国際刑事法廷(ICTY)を補助機関として設置しました。

また、1994年には同様の手続を経て、ルワンダ紛争下におけるジェノサイド等の犯罪について訴追するルワンダ国際刑事法廷(ICTR)を設置しています。

国際機構との合意に基づく特設法廷

それ以外にも、シエラレオネに置かれた特別法廷(SCSL)のように、被害国と国連の合意に基づく特別法廷、アフリカ特別裁判部(EAC)のような容疑者所在国と地域的機構(アフリカ連合)の合意に基づく特別法廷、カンボジア特別法廷(ECCC)のように、国連の支援を受けた国内司法権内の特別法廷の形式もあり得ます。

侵略犯罪に対する特別法廷設置案

 

ICCが侵略犯罪について管轄権行使できないので、国際法学者や裁判官らが協働で特別法廷の設置を呼び掛ける文書を公表しています。


 

TJ

紛争後の特別な法域: 移行期正義

移行期正義とは、独裁政権からの民主化の期間や、紛争後の平和化の過程(移行期)における特別な正義のレジームです。

紛争下においては、戦争犯罪のほか、単純な通常犯罪(不法侵入、窃盗、暴行、殺人)や文民による戦闘行為への参加といった数多くの犯罪が発生する傾向があります。これらをすべて、平時の刑事司法と同じ基準を用いて訴追することは物理的に不可能です。

かつては、戦時下の犯罪を不問とする一般恩赦(Blanket amnesty)が宣言されることが一般的でした。和平合意にも、恩赦規定を盛り込むことが慣習となっていました。

しかし、近年、「不処罰の防止」と「法の支配」のの観点の強化をうけて、中核犯罪への恩赦は違法であるとの規範の生成が見られます。これは、重大な人権侵害の被害者の「救済に対する権利」として、必要な刑事捜査を行い、真実を明らかにすること、必要な場合は訴追・処罰することの重要性の認識が高まってきたことによります(特に、南アメリカ諸国における独裁政権下での人権侵害に関する事件に関する米州人権裁判所判決など)。

犯罪を不問に:

恩赦

恩赦とは、一般的に、犯罪から生じる責任についての捜査や訴追、処罰を禁ずる措置を指します。

法に従えば有罪であっても、道徳やその他の考慮から、犯罪実行者の罪を不問にする措置です。

主権者の慈悲を表す行為とされ、現在でも多くの国で恩赦制度が残されています(日本にも恩赦法があります)。

紛争後の犯罪処理として、恩赦が利用されてきました。これには、恩赦の約束を交渉材料として使ってきた、または紛争当事者双方にとっての利益になる、さらなる憎悪の連鎖を断ち切る、といった様々な制度趣旨が挙げられます。

恩赦の種類

一般恩赦

特に条件なし、期間や地位、罪状などで区切るものが見られます(チリ、アフガニスタン等)。

 

条件付き恩赦

真実の告白や武器の返納、被害者への賠償といった条件が付くものです。真実委員会等の移行期メカニズムが利用される例もあります(ウガンダ、リビア等)。

ミンスク合意

2014年のドンバスでの紛争を終結させるために、欧州安全保障協力機構(OSCE)の協力で締結された国際合意であるミンスク合意にも、恩赦を行う旨の規定がありました。

ミンスク合意

6. Enact a law prohibiting the prosecution and punishment of persons in
connection with the events that took place in certain areas of the Donetsk and
Luhansk regions of Ukraine.

(UN Doc. S/2015/135)

今回のロシア―ウクライナ紛争がどのような形で終結するかはわかりませんが、何らかの合意が締結されることとなると思われます。その際に、どのような恩赦規定が盛り込まれるのか、それによって、どの範囲の個人が紛争下における責任から免除されるのかが注目されます。​

 

移行期正義・恩赦の問題 The issue of transitional justice and amnesty

repa

賠償 Reparation

ICCと被害者信託基金(Trust Fund for Victims: TFV)

ICCでは、中核犯罪について有罪判決が出た場合に、その事件で有罪判決が出た犯罪行為の被害者に対する賠償を、有罪となった者に対して命じることができます。

​有罪となった者が財産を持たない場合、被害者信託基金(TFV)が立て替えて賠償が行われます(賠償任務)。

そのほかにもTFVは、任意拠出金や締約国会議により配分される「その他の資産」を使って、ICC が管轄権を行使している事態について、刑事裁判に参加している被害者に限定されない広い範囲の被害者及びその家族に対して、物理的・心理的リハビリテーションや物的支援など、被害者の生活と人間性の回復を支援するプロジェクを実施します(一般支援任務)。締約国による事態付託があったため本件でも一般支援任務を開始することができます。

ICC規程75条 被害者に対する賠償

1 裁判所は、被害者に対する又は被害者に係る賠償(原状回復、補償及びリハビリテーションの提供を含む。)に関する原則を確立する。その確立された原則に基づき、裁判所は、その判決において、請求により又は例外的な状況においては職権により、被害者に対する又は被害者に係る損害、損失及び傷害の範囲及び程度を決定することができるものとし、自己の行動に関する原則を説明する。

2 裁判所は、有罪の判決を受けた者に対し、被害者に対する又は被害者に係る適切な賠償(原状回復、補償及びリハビリテーションの提供を含む。)を特定した命令を直接発することができる。

裁判所は、適当な場合には、第七十九条に規定する信託基金を通じて賠償の裁定額の支払を命ずることができる。

3 裁判所は、この条の規定に基づき命令を発する前に、有罪の判決を受けた者、被害者その他の関係者若しくは関係国又はこれらの代理人の意見を求めることができるものとし、それらの意見を考慮する。

4 裁判所は、この条に基づく権限を行使するに当たり、いずれかの者が裁判所の管轄権の範囲内にある犯罪について有罪の判決を受けた後、この条の規定に基づいて発することができる命令を執行するため、第九十三条1の規定に基づく措置を求めることが必要か否かを決定することができる。

5 締約国は、第百九条の規定の例により、この条の規定に基づく命令を執行する。

6 この条のいかなる規定も、国内法又は国際法に基づく被害者の権利を害するものと解してはならない。

賠償任務

有罪判決が出た場合、以下の5つの原則(ルバンガ原則)に従って賠償命令が出されます。

ルバンガ原則

①有罪となった者に対して行われること

②有罪となった者に対してその者の賠償に関する責任について確立し、通知すること

③命令された賠償の種類を特定し、その理由を提供すること

④有罪となった者の犯罪の結果として、直接および関節的な被害者に生じた被害を定義し、本件の特定の状況において適当と考える賠償の態様を特定すること

⑤賠償を受け取る資格のある被害者を特定するか、被害と犯罪の間の連関に基礎をおいた資格の基準を規定すること

 

賠償の種類

個人賠償:被害者個人が被害について申請し、決まった算定額を受け取る仕組みです(カタンガ事件等)。

集団賠償:被害コミュニティ全体に対して支払われる賠償です。具体的には施設やメカニズムの提供などが入ります(ルバンガ事件)。

個人化された要素を持つ集団賠償(collective reparations with individualised components):トラウマに対するリハビリテーションの提供などです(ンタガンダ事件)。

一般支援任務

 

​有罪判決が出なくとも、「ICCが管轄権を行使している事態」に対して、一般的な支援を行うことができます。

本件に関してもTFVの長が一般的な声明を出しています。

​2022年3月28日現在、一般支援任務のプロジェクトはだされていません。

ICC以外の賠償メカニズム

 

イラクのクウェート侵攻及び占領に関連して設置された国連賠償委員会(United Nations Compensation Commission (UNCC))。

 

エチオピアーエリトリア請求委員会(EECC)

停戦協議・和平合意における請求権問題

第二次世界大戦後のいわゆる戦後処理において、武力紛争から生じた損害に対する請求権は、和平合意において「放棄」されました。しかし近年、戦争の被害を受けた個人による民事訴訟が行われ、国家間での請求権放棄が個人の請求権を奪えるかという理論的問題が残されていることが明らかとなってきています。

 

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