ICCの賠償命令研究
国際刑事裁判所(ICC)からは、過去4件の賠償命令が出されています。
それぞれの判決文を分析し、ICCにおける賠償原則、被害者の定義と範囲、賠償の形態等について明らかにしてきます。
01
ルバンガ事件
本事件はコンゴ民主共和国(DRC)のイトゥリ地方における子ども兵の徴集・使用についての事件であり、被告人ルバンガは18年の拘禁刑を言い渡されている。第一審賠償命令は2012年8月7日、上訴審判決は2015年3月3日に出された。賠償形態としては、第一審では賠償手続の基金への委託が行われ、425人の申請被害者に対する「共同体ベースのアプローチ」が採用された。一方、上訴審では裁判部が集団賠償を適切と判断し、基金が実施計画案を提出した。賠償額は総額で1千万米ドル。
Prosecutor v. Lubanga, Decision establishing the principles and procedures to be applied to reparations (ICC-01/04-01/06-2904) Trial Chamber I (7 August 2012)
Prosecutor v. Lubanga, Judgment on the appeals against the “Decision establishing the principles and procedures to be applied to reparations” of 7 August 2012 with AMENDED order for reparations (Annex A) and public annexes 1 and 2 (ICC-01/04-01/06-3129) Appeals Chamber (3 March 2015).
02
カタンガ事件
本事件はルバンガ事件と同様DRCのイトゥリ地方における、2003年2月24日に行われたボゴロ村での文民たる住民への攻撃を対象としたもので、家屋の破壊、略奪、殺人が訴因となり、被告人カタンガは12年の拘禁刑を言い渡された。2017年8月17日に第一審賠償命令、2018年3月8日に上訴審判決が出された。第一審では297人に対しそれぞれ 250米ドルの個人賠償と、集団賠償の形態が採用された。上訴審では、第一審判決の内容がおおむね確定し、精神的損害に関してのみ差し戻しとなった。賠償額は100万 米ドル。
Prosecutor v. Katanga, Order for Reparations pursuant to Article 75 of the Statute, ICC-01/04-01/07, Trial Chamber II (24 March 2017)
Prosecutor v. Katanga, Judgment on the appeals against the order of Trial Chamber II of 24 March 2017 entitled “Order for Reparations pursuant to Article 75 of the Statute” (ICC-01/04-01/07-3778-Red) Appeals Chamber (8 March 2018)
03
アルマーディ事件
本事件は、マリのトンブクトゥでの文化財破壊が問題となり、被告人アルマーディは罪を認め、9年の拘禁刑を言い渡された。第一審賠償命令は2017年8月17日、上訴審判決は2018年3月8日に出されている。第一審では、保護された建物の復旧にあたったUNESCOとマリの国民に対する各1ユーロの象徴的賠償に加え、保護された建物に生計を依拠していた個人の経済的損失に対する個人賠償が決定された。上訴審では第一審判決の内容をおおむね確認し、手続に関して部分的に修正が加えられた。賠償額は270万ユーロ。
Prosecutor v. Ahmad Al Faqi Al Mahdi, Reparations Order (ICC-01/12-01/15-236) Trial Chamber VIII (17 August 2017).
Prosecutor v. Ahmad Al Faqi Al Mahdi, Public redacted Judgment on the appeal of the victims against the “Reparations Order” (ICC-01/12-01/15-259-Red2) Appeals Chamber (8 March 2018),
04
ンタガンダ事件
本事件は、ルバンガ事件と同じ武装組織に属していた被告人ンタガンダに対し、2002年8月から2003年12月の間にDRCイトゥリ地方で発生した非国際的武力紛争における、当該地域からレンドゥ族を排除するための軍事キャンペーンにおける犯罪が焦点とされている。訴因には人道に対する犯罪(殺人、強姦、性奴隷化、迫害等)や戦争犯罪(殺人、文民への攻撃、強姦、性奴隷化、略奪、文民の移送、子ども兵の徴収・使用、敵財産の破壊等)が含まれ、被告人ンタガンダには30年の拘禁刑が言い渡された[1]。2021年3月8日、本案判決の上訴審の決定を待たずに、第一審裁判部により賠償命令が出され[2]、2022年9月12日には賠償命令に対する上訴に関する判決が出された[3]。第一審では、被害のカテゴリには攻撃の直接被害者、子ども兵に対する犯罪の直接被害者、子ども兵士と強姦・性的奴隷制から生まれた子どもを含む強姦と性的奴隷制の直接被害者、および間接被害者を認定した上で、「個人的性質を持つ集団賠償」を採用した。上訴審では、手続的な誤りなどを認めたため、一部差し戻しとなった[4]。賠償総額は3千万米ドル。
[1] Carla Ferstman and Mariana Goetz, Reparations for Victims of Genocide, War Crimes and Crimes against Humanity Systems in Place and Systems in the Making. Second Revised Edition (Brill, 2020).
[2] Prosecutor v. Bosco Ntaganda, Reparation Order (ICC-01/04-02/06-2659) Trial Chamber VI (8 March 2021).
[3]
[4] Judgment on the appeals against the decision of Trial Chamber VI of 8 March 2021 entitled“Reparations Order”, ICC-01/04-02/06-2782, the Appeals Chamber, 12 September 2022
Prosecutor v. Bosco Ntaganda, Reparation Order (ICC-01/04-02/06-2659) Trial Chamber VI (8 March 2021).
Prosecutor v. Ntaganda, Judgment on the appeals against the decision of Trial Chamber VI of 8 March 2021 entitled“Reparations Order”, ICC-01/04-02/06-2782, the Appeals Chamber, 12 September 2022
ICC-01/04-02/06-2858-Red 14-07-2023
ICC-01/04-02/06-2908-Red
05
オングウェン事件
ウガンダで長年内戦を行ってきた「神の抵抗軍」の幹部、ドミニク・オグウェン事件。殺人やレイプ、子ども兵の使用といった多種多様な人道に対する犯罪と戦争犯罪について2021年2月4日に有罪となり、25年の拘禁刑が言い渡されました(2022年12月15日の上訴審判決で確定)。
2024年2月28日、賠償命令が言渡されました。長期間にわたる残虐な犯罪ばかりで、性被害や子どもの被害もあり、どれほどの賠償が言い渡されるのかと注目されました。リハビリテーションを中心とした、集団的-共同体ベースの賠償と、各被害者個人には750ユーロの象徴的賠償の支払いが命じられました。推定の最小の被害者数 49772人、賠償命令総額:52,429,000ユーロという、史上最高額の賠償命令となりました。
Prosecutor v. Ongwen, Reparations Order, ICC-02/04-01/15-2074, Trial Chamber IX, 28 February 2024.