ストーリー
本研究プロジェクトは、国際刑事司法の研究者である越智萌と、ウガンダで長年フィールドワークを行ってきた人類学者である川口博子の2人の共同研究に端を発します。
川口が博士論文の研究の一環で、戦争被害の傷跡が残るウガンダ北部の村で参与観察をしていたとき、国際刑事裁判所(ICC)のスタッフらが被害の調査にやってきました。これを見た川口は、突然やってきた国際機関と、それに対応する村人たちの価値観の違いとコミュニケーションの難しさを目の当たりにしました。
他方、越智は、研究室のパソコンの前で、ICCの出した賠償に関する文書を読みながら、これはいったい、当事者たちにはどのように受け止められているのだろう、どんな意味があるのだろう、と思いを巡らせていました。現場の声を聴いてみたい。当事者たちは、突然やってきた国際機関の人たちを、どのような目で見ているのだろう。
こうした疑問を抱えた2人は、2015年のアフリカ学会で出会い、驚き、それ以来、何度も語り合いました。その後、2人の研究関心をつなぐ「かすがい」となる概念、「変革的正義」概念に触れ、共同研究としての軸を構築していきました。
2022年に、立命館大学人文科学研究科助成プログラムの助成を受け、「国際刑事司法における変革的正義」プロジェクトを開始しました。
2022年4月には第一回研究会を開催。5月にはアフリカ学会での共同発表「ウガンダ北部紛争後の被害者のための賠償にむけて:国際刑事裁判所を介した変⾰的正義の可能性 」を行いました。
その後、越智は国際刑事裁判所(ICC)による賠償判決の判例研究を、国際刑事判例研究会において継続。川口は、フィールドワークを継続してきました。
2023年1月には、Victim-centered International Law と題した国際セミナーを開催。6月には共同でハーグへの調査旅行を実施。9月には、国際刑法学会(AIDP)との共催で、International Association of Penal Law (AIDP) 11th AIDP Young Penalists Symposium In Kyoto Victim-Centered Criminal Justice を開催し、特別パネルを実施しました。
2023年11月からは、トヨタ財団により「戦後社会の現在から未来を創造する賠償デザイン―グローバルとローカルをつなぐ変革的正義の実現をめざして」と題した研究プロジェクトが採択されています。
被害者によるローカルな声と、国際刑事裁判所(ICC)といった国際機関とのコミュニケーションをどのように促進し、ICCの賠償制度をより変革的なものにできるか、をテーマに、多様な参加型の研究プロジェクトを実施しています。