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変革的正義とは

このページでは、変革的正義概念について解説しています。

変革的正義概念は、応報的正義、修復的正義、といった、刑事司法に関する新たな概念です。

これを、戦後の移行期といった、国際刑事司法に取り入れた場合に、すこしアレンジが必要になります。

​応報的正義
​Retributive justice

犯罪が起これば処罰がある。これは、伝統的な西欧的刑事司法の基本的考え方です。しかし、戦争や大規模な人権侵害においては、多くの人は被害者であると同時に加害者にもなり得ます。また、何千人、何万人という規模で、「犯罪者」が生じてしまうため、すべての人を処罰すると、社会が立ち行かなくなるという難しさもあります。

移行期正義
​Transitional justice

戦争期から平和期へ、独裁から民主制へ、といった、大きな体制の移行の過程では、法の支配は及んできませんでした。しかし、たとえ通常の法による支配は困難でも、何らかの特別な法空間を構想し、正義をなすことは可能かもしれません。

「憎しみの連鎖を断ち切る」
​”Breaking the Cycle of Hatred”

マーサ・ミノウは、Between Vengeance and Forgiveness: Facing History After Genocide and Mass Violence (1998)において、戦争や大規模な人権侵害の後に、どうやって「憎しみの連鎖」を断ち切ることができるのかを研究しました。従来型の処罰に代わる、「代替的な正義の形態」を模索したのです。

修復的正義
​Restorative justice

ハワード・ゼアは Changing Lenses: A New Focus for Crime and Justice (1990)で、処罰に重きをおく応報的正義ではなく、新たに、犯罪によって壊された人々の関係を修復する、という修復的正義を構想しました​。

この概念は、多くの国の修復的正義プログラムとして、被害者と加害者の面会と和解プロセスにおいて実践されています。

​「修復ではたりない」
​”Not enough”

修復的正義概念が大きな反響をもって受け入れられるなか、ルス・モリスはゼアの書籍に対する書評"Not enough," Mediation Quarterly 12, no. 3 (Spring 1995): 285-291において、「犯罪が起こった構造を元に戻すのでは足りない」。貧困や差別といった、社会構造を変革しない限り、犯罪の防止はできないという主張を展開したのです。

​この考え方は、学校環境の改善やジェンダー平等の確保といった「変革的正義」のムーブメントにつながりました。

変革的正義
​Transformative justice

ポール・グレイディとサイモン・ロビンスは、From Transitional to Transformative Justice (Cambridge University Press, 2019)において、移行期正義に対し、変革的正義は代替的な概念となるか、について検証しました​。結論としては、代替するものではないが、変革的正義概念を取り入れることで、多くの部分を補完・改善することができる、としました。

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